わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

乃南アサ「家裁調査官庵原かのん 第13話キツネ」小説新潮2021年12月号

 主人公は転職して家庭裁判所調査官になった30歳代の女性です。最近の号では最初に調停や審判の申立書、審判の主文などが示され、事件の概要や家裁の手続きがリアルにわかる構成です。

 今月号は元夫である申立人杉原耕史(こうじ・42歳)から元妻の荻野目朱里(じゅり・34歳)に慰謝料を請求した事件です。

 申立書によると、耕史は行きつけの美容室で美容師見習いをしていた朱里と知り合います。朱里は当時キャバクラでダブルワークをしていて、2、3回関係を持ったといいます。朱里から妊娠したので責任をとってほしいといわれ、当時婚約していた女性と婚約破棄して朱里と一緒になりました。耕史は仕事や遊興で家庭を顧みないので朱里から離婚を申し立てられ、子供の親権を朱里に渡し、身一つで家を出ました。結婚当初から耕史は固定給はすべて通帳ごと朱里に渡し管理を朱里に一任していましたが、朱里はそのお金で別のマンションを買い、男を住まわせていたことがわかります。加えて息子・颯真(そうま・11歳)が自分と似ていないことからDNA鑑定すると血縁関係がないことがわかります。耕史は心理的にも経済的にも損害を受けたとして慰謝料を請求したとあります。

 朱里は調停に現れるたびに毎回違う色のカラコンをつけて登場します。服も髪もメイクもまるで人形のようです。また、調停に訪れるたびにタトゥーが増えていきます。同居人は彫り師のようです。

 2回目の調停で朱里は颯真が耕史の実子でないことを白状しますが、お金がないので慰謝料には応じられないとします。その代わり息子の親権を渡すといいます。あまりの非常識さに一同唖然とします。

 それでも、その後の面談で耕史は親権変更に同意します。自分しか頼る人がいない颯真を見捨てることはできないと決断したのです。真相を知らない颯真です。実子でない颯真の親権を引き受けたので別の問題を内包したままでの解決です。

 このシリーズは大抵、事件は解決して終わりますが、今回、初めて全面解決ではない終わり方をしています。後味はあまりよくありませんでしたが、本来、全面解決など無いのが普通なのではないかと思います。

 全編を通じると作風に暗さはありません。主人公の夫はゴリラの飼育員で「クリリン(栗林)」と呼ばれているように、軽いノリで描かれています。家庭裁判所調査官の他にも調停委員、書記官、裁判官との役割分担、転勤事情なども描かれています。

 今後、単行本になったら家庭裁判所調査官をめざす人には格好のお仕事ガイドになると思います。