わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

原田マハ「晴れの日の木馬たち」(第3回)小説新潮2021年9月号

 作品のあらましを初回(7月)号のキャプションから引用すると、「病の父を支えるために倉敷紡績で働く16歳の少女が、いかに作家となり、1920年代のパリで生きるに至ったか・・・女の一生」を描く「著者初の大河小説」とあります。

 まだ始まったばかりですのでどのような展開になるかはわかりませんが、初回のプロローグからヘミングウェイと関わりのあった日本人が主人公ということだけは記憶に残っていました。

 物語は1910年に遡り、主人公・山中すてらが紡績工場で寮生活をしながら働く様子から始まりました。すてらの溌剌とした性格と知識欲旺盛な同年代の女工たちに、いっぺんに魅了されてしまいました。初回からこの作品は名作になる予感がしています。

 さて、今月号はすてらの両親について描かれている回です。

 すてらの母・トメは10歳のときに人買いに売られ豪商の下女となっています。しかし、豪商の次男の子を孕むとそのまま放逐されてしまいます。赤貧の中で育ちましたので猜疑心が強くなるのはやむをえない面はありますが、粗野で偏狭な人物として描かれています。

 一方の父・又八は清貧の人として描かれています。又八の両親は苦難の中でキリスト教に出会い入信します。生まれた又八もクリスチャンとして育ちます。又八は10歳までに両親を亡くし、父の残した棒手振りの仕事をして糊口を凌いでいました。

 又八は14歳の時に露頭に迷っているトメと出会い、生まれてくる子を自分の子供として育てます。又八はトメがいずれ捨てるから名前は「すて」と言い放った赤子を教会に連れていく道すがら「すてら」と命名しようとしたところで第3回が終わります。貧しくとも信仰と無私の愛をもった又八に胸を打たれる神回でしたね。