わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

パリュスあや子「光を飾る」小説新潮2021年6月号

 今月号でもっとも気に入った作品です。標題も綺麗でいいですね。

 この作品で「額装」という仕事を初めて知りました。「石」や「枝」を額装していることや額装の作業工程が随所で詳細に描かれています。それがとても新鮮でした。

 ストーリーは主人公の茜が額装に魅せられて、フランスで額装職人として修業していく過程で、家族を思うことと、やりたい仕事の選択に悩みながら、結局はやりたい仕事を選択するまでを描いています。

 ストーリーを構成する要素はシンプルですが巧みです。家族を思うことについては、茜とフランス人のディミトリと日本人留学生の侑果(ゆか)の3人で対比させています。修業先の店主の息子であるディミトリが父をリスペクトし素直に家族愛を表現するのに対して、茜は両親の反対を押し切ってフランスに来ていますので、ディミトリの素直さを苦々しく感じてしまいます。また、フランスで映画を学んでいる侑果も両親と喧嘩してフランスに飛び立っていますので、どちらかというと茜寄りの家族観です。家族愛についての文化の違いを作者はうまく表現していると思います。

 さらに文化の違いについては、茜が道具に「AKANE」とシールを貼っているのに対して、フランスの職人は道具はシェアするものと自分の道具に頓着しない様子を描いています。一方で、茜と一緒に仕事をする過程で茜方式の丁寧な梱包を真似るようになったことなどを描いています。こうした違いも興味深いですね。

 物語が転換する重要な場面は家具職人である父親が大怪我をするところです。実際はそれほどの怪我ではなかったのですが、茜は仕事を中断して見舞いに行くべきか、ゆくゆくは日本で家業を継ぐべきか、今の仕事を続けるべきか悩みます。

 ここでも侑果の位置づけ(役割)が効果的です。作者は茜の決断を後押しする役割を侑果に担わせています。侑果は自分が賞を取った作品のフィルムの一部を額装し両親にプレゼントするのだといいます。侑果は額装を茜に依頼するとともに、その作業工程を撮影します。後日その映像をみた茜は自分の弱点を見つけ、納得できる作品ができるまで帰省を見合わせると割り切ったところで物語を終えます。

 テーマの新鮮さ、構成の巧みさ、ストーリーのわかりやすさとともに、感情表現の豊かさにも共感しました。例えば、「君も何かの職人なんだろう?」に対して「ひどく動揺した」「私が職人に見えるんだ?」「否定はしなかった」あるいは、「信じられない」「愛情を隠さない」「嬉しかった」「足が止まった」「父の言葉を聞くのが堪えがたかった」「グッとのどが詰まった」「目をしばたいた」「心は決まっていた」などなど、文章の半分以上が感情表現の印象です。