わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

宮島未奈「ありがとう西武大津店」小説新潮2021年5月号

 この作品は今年(2021年・第20回)の「女による女のためのR-18文学賞」で史上初の大賞と読者賞と友近賞の3冠を達成しました。

 作者は主人公の「わたし(島崎)」の幼なじみの成瀬がひと夏の思い出づくりを実行する過程で起きるいくつかの出来事を「わたし」の視点で描いています。

 物語は長年地元で親しまれてきた唯一のデパートが8月31日をもって終了するところから始まります。ローカル局では8月からの1か月間、夕方のニュース番組で閉店までのカウントダウン中継を実施することになりました。

 成瀬は思い出づくりと称して、この中継に毎日映り込むことを実行します。成瀬はただ自分のために実行しているだけです。島崎に参加を求めることはありません。誰かに存在を認めてほしいわけでもありません。

 島崎は時には一緒に中継場所に出向くこともありますが、基本的に成瀬の行動を見守っているだけです。

 作者はカウントダウンがあるからといって次第に高揚感を高めるわけではなく、閉店を感傷的に捉えるわけでもなく、クラスメートが番組に映っていても教室内を盛り上げることもしません。物語は淡々と進行します。それでもこの作品は印象に残ります。

 選者の辻村深月氏は「中学生の日々は常に、自分に何もないことと格闘する日々であることにも気づかされ、普遍的な青春時代の何もないと闘う彼女たちの記録がたまらなくいとおしい。かつ、この感覚は実は大人であっても現在の私たちが多かれ少なかれ只中に持つものだとも感じ、だからこそ作中の成瀬の一見たわいのないように見える挑戦がこんなにも眩しいのでしょう」と評しています。

 同じく選者の三浦しをん氏は「しょうもなさの陰に、実は切なさやいまが刻印されているのも本作の優れたところだと思う」「リズムのある文章でとても楽しかった」と評していました。

 読者賞を受賞する作品は大体、文章にリズム感があり、ストーリーがわかりやすく、それでいて自分に重なる部分の感じられる作品が多いように思います。

 作者は熱い友情や高みをめざす挑戦ではなく、中学生の温い友情や等身大の挑戦を描いています。身近な日常を描いて惹きつけるのは難しいことと思いますが、作者はそれに成功しています。また、成瀬の行動を「わたし」の視点で描写したのも功を奏したと思います。