わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

梶よう子「東都の藍」(最終回)小説新潮2020年8月号

 この小説は、歌川広重(安藤重右衛門)が鳴かず飛ばずの時代から「東海道五十三次」で名声を博し、「名所江戸百景」を描くまでの一代記です。作品は本誌に2019年4月号から2020年8月号まで17回に渡って連載されました。今月号がその最終回です。

 最終回がどの作品も味わい深い作品になるわけではありません。そういう場合、大抵、単行本になるときに加筆修正が入り、題名も改題され別の作品になることが多いように思います。しかし、この作品はたぶん同じ題名で刊行されるのではないかと思っています。十分に余韻を含んだ晴れやかな最終回でした。

 読んでいて、これまでの光景が自然と思い出されました。不遇の時代に妻・加代がひたむきに重右衛門を支え、これからという時に急逝してしまったことがあります。重右衛門の悲嘆に涙しました。同じく、一番弟子の重昌が労咳で亡くなったこともありました。このときも重右衛門の落胆に共感したものです。

 「ベロ藍」(西洋由来の絵具・ベルリンブルーの通称)のグラテーションをつくるために摺師の寛治(かんじ)と悪戦苦闘したことも思い出されます。このベロ藍のグラテーションは出世作となった「東海道五十三次」(保永堂版)で使われました。ベロ藍のグラテーションは今日みても綺麗です。当時の人はさぞ驚いたことでしょう。私が小学生か中学生の頃、永谷園のお茶漬けに広重の東海道五十三次の絵札が入っていました。今度はどこを描いた絵が入っているのか楽しみにしていたのを思い出します。

 春画で苦労したこともありました。妹の夫の借金の保証人になっていたために借金返済に春画で返済することになり、苦労して描いた春画が、版元や市井の若造にもこき下ろされる場面は笑いました。

 広重の特長を端的に説いた場面もありました。風流といえば花鳥風月ですが、広重の画は各所を春夏秋冬に分け、さらに風、雨、月、雪とその場の天候で分けるというものです。風と雨は画に動きを、月と雪は静けさを出すといいます。季節と天候の組み合わせが広重の画なのだと弟子に説明する場面です。私は雨を描いた作品が好きです。人が雨の中を急いで逃げ惑う作品がありますね。確かに動きがあります。

 それでも、名所絵は錦絵の中では一番格下なのだと版元は言います。西洋の印象派に影響を与えた北斎や広重ですが、評価は時代で変わるものですね。

 最後は朝湯が大好きな重右衛門が湯舟に浸かっている場面です。湯舟に浸かると亡くなった北斎、不遇時代を支えた版元の喜三郎、妻の加代、一番弟子の重昌が迎えに来ています。そのほかにも身近な面々が登場します。2代目は決めないままでしたが、あとのことは鎮平(重宣・2代目広重)に任せ、家路につくところで物語を終えます。

 NHK大河ドラマ「秀吉」(竹中直人主演)の最終回で秀吉が死出の旅立ちを皆とにぎやかに花見をしている場面がありました。そんな場面を思い出しました。

 いい作品をありがとうございました。