わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

梅田寿美子「カラダカシと三時の鳥」小説新潮2020年5月号

 この作品は「第19回女による女のためのR-18文学賞」(2020年)で読者賞と友近賞を受賞した作品です。大賞は「何言ってんだ、今ごろ」(秋ひのこ作)でした。両作品とも魅力的な作品でしたが、私が一つ選ぶとすれば「カダラダカシ・・」です。

 「・・・今、両目とも貸し出してしまっていて・・・」で始まります。そこで突飛ですが「カラダカシ」とは体のパーツを貸すことなんだと理解し読み始めることができます。

 主人公の長尾晴子(ながおはるこ)は郭原公香(かくはらきみか)の身の周りの世話をするアルバイトを始めます。カラダカシを生業とする公香が体の一部を貸し出して不自由にしている間の身の周りの世話をする仕事です。公香は綺麗な老女で、優雅な一人暮らしをしていることが描かれています。

 さっそく、鶴来(つるぎ)という70歳代の男性から両手を3日ほど借りたいと依頼があります。鶴来は元理容師です。妻が施設に入る前に妻の髪を綺麗にし、車椅子を押して妻と旅行に行きたいので動く両手を貸してほしいといいます。

 3日後に両手は返してもらえますが、その後、鶴来が妻を介護殺人したことがニュースで明らかになります。公香はこれまでの経験から貸し出した両手が首を絞めたことを何となく察知できるようでした。カラダカシの善用と悪用を一遍にみせられて、不気味な世界に引き込まれていきますね。

 物語は晴子の一人娘・陽向(ひなた)の話題に展開します。晴子と陽向は母子家庭です。なぜ母子家庭なのかはまだ明らかになりません。

 陽向は晴子のアルバイトに興味を持ち始めます。この間に公香は耳も貸し出します。目と耳が不自由な公香の元に陽向は秘かに会いに行きます。それでも晴子は陽向が公香に会いに行ったことは気づいています。

 いよいよ目が返ってくる日が来ます。借りたのは盲目の妊婦でした。妊婦は生まれてくる子どものために空や海の青さを知っておきたいから借りたのだといいます。ちょっと泣ける展開です。ここは善用の例ですね。

 妊婦つながりに物語はクライマックスを迎えます。晴子が公香の助手になった理由が明らかになります。10年前に晴子は流産し、退院の日に待合室で痛みに耐えていました。すると、綺麗な人が「あなたにひとつ魔術をかけてあげましょう」といって晴子の下腹部に手を当てると痛みが消えていました。次の妊娠で産まれたのが陽向でした。しかし、流産後は夫とは一度もセックスをしていませんでした。そのため、不貞を疑われ離婚していました。

 晴子は妊娠している公香の子宮と交換されていたことを確信し、公香に近づいたことを話します。公香に会ってみると、陽向は公香にそっくりでした。

 公香の家にはいつも鳩時計が時を刻んでいました。でも鳩時計の鳥は本来はカッコウだといいます。カッコウは托卵(たくらん)といって、モズなど他の鳥の巣に卵を産み、子育てを押し付ける鳥です。カッコウは自分の体温では抱卵できないので進化の過程で托卵をするようになったようです。見方によっては悲しい鳥でもあります。

 「午後三時。カラダカシの家には、カッコウが泣いている。」で物語を終えます。原題は「カラダカシの家にはカッコウが鳴く」とありました。審査員の辻村深月氏と三浦しをん氏の選評によると、「矛盾や情報提示の不手際」等を加筆修正する助言をしたようです。原題は「・・カッコウが鳴く」でしたので、本文の最後も「・・カッコウが鳴いている」だったのだと思いますが、「・・泣いている」に修正したのかもしれません。それはそのまま公香が泣いて謝罪していることを暗示していますね。