わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

越谷オサム「名島橋貨物列車クラブ」小説新潮2019年6月号

 この作品は、はじめに「貨物列車の思い出」という小学生風の作文が載っています。これは主人公の原颯太(はら そうた)が小学校の卒業文集に提出した作文です。

 しかし、颯太はこの作文が卒業文集に載るのは気持ち悪いと思っています。なぜなら、この作文は白石先生に何度も添削され、伸び伸びとした素直な持ち味が消えてしまったからです。優等生っぽくって自分の文章ではないと感じています。

 そこで、自分だけの卒業作文を枚数に制限をつけずに夕飯前に都度書き続けていきます。本音で書いていきますので、「松尾君」は普段呼び慣れている「塁人(るいと)」です。「おっしゃいました」はアウトです。「松尾君と将来の夢を話します」なんていうことは1回もないと嘘の指導を暴いていきます。

 塁人は近所に住む幼なじみです。発達障害がありますので、うっとおしく思う時もありますが、塁人と毎日、名島橋まで貨物列車を見に行っています。そこに「伊藤萌香さん」という女子が登場します。3人での貨物列車見学は「名島橋貨物列車クラブ」と命名されます。3人での貨物列車見学や学校での出来事が書き綴られていきます。

 颯太は自分だけの卒業作文を閉じる前に、どうしても伊藤さんのことを真正面から書かないと終わらないと決心し、伊藤さんと共有した塁人がらみの事件に至るまでのエピソードを書き加えます。

 事件というのは、塁人が貨物列車の連結部分に忍び込み、走行中に名島橋付近で目撃され、保護された一件です。塁人は颯太が入選した児童文集をもって、颯太の父親が単身赴任している神戸に届けようとしたのです。以前、颯太がその児童文集を父親に見せたいといっていたことを叶えてあげたくて実行したものです。

 この事件のあと、3人で貨物列車に手を振った日を最後に伊藤さんは中学受験に専念するために名島橋貨物列車クラブへの参加が終わりました。最後の一文には、この間に芽生えた恋心が率直に書き綴られています。

 この作品は小学6年生が3学期の終わりに書いた私的な作文の体裁をとっています。先生の指導の仕方への疑問、発達障害のある親友のこと、鉄道の趣味のこと、恋心などを率直に書いています。作品の登場人物と同学年の小学校高学年から中学生が読むとたぶん共感するのではないかと想像します。

 また、本誌の読者なら、タイムスリップして少年少女時代に戻ったつもりで読むと、作品の良さが味わえると思います。良質な児童文学として堪能させていただきました。