わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

清水裕貴「金色の小部屋」小説新潮2018年8月号

 本誌8月号は毎年、怪談の特集です。怪談には本当に怖い怪談とあまり怖くない怪談、哀しい怪談があるように思います。怖い怪談ばかり読んでいると本当に怖くなってしまいますが、適度に哀しい怪談も収録されていると緊張が解けます。この作品は哀しい怪談です。感想文を書くならこれくらいの怖さの怪談が私には合っています。

 

 主人公の「あき(私)」は美術予備校の講師です。教え子の川上宇一(ういち)が線路に転落し亡くなったところから物語は始まります。宇一は新進気鋭の画家に成長し始めた矢先の事故死でした。

 

 あきは、講師仲間の草門(くさかど)と生徒の遥(はるか)の3人で通夜の帰りに宇一と出会います。宇一は今、棺桶に入っているのは別人だと言い出します。(えっ、そうなのかと意外な展開に戸惑いながら読み進めます)

 

 4人はあきの部屋で飲み会を始めますが、すぐにクロッキー会に移行します。遥がモデルになり、宇一は次々とクロッキーを仕上げていきます。

 

 その時、遥は自分たちの姿は部屋の鏡に映っているのに、宇一の姿は映っていないことに気づきます。

 

 3人はやはり宇一が亡くなっていたことを悟ります。やがて、宇一は「葬式が始まるから戻らないと・・・先生たちと話ができて・・・嬉しかった」と別れを告げます。

 

 遥は「逃げちゃえば?・・・鏡に映らないことくらい、どうでもいい・・・そのまま生きればいいよ」と言います。宇一の死を認めたくない遥の心情が泣けます。

 

 しかし、宇一は「時間です・・・」と言って、部屋の床に空いた穴に消えていきます。その時、部屋が金色に燃えていました。

 

 ここで、文章は2行空いているので、現実世界に戻っているようです。(何時に目を覚ましたのか不明ですが)あきが目を覚ますと部屋が燃えています。草門のたばこの火の不始末が原因の出火のようです。危うく火は消し止めましたが、部屋には黒い穴が空いていました。中をのぞいても何も見えない虚空の穴に遥が手を伸ばしたところで物語は終わります。

 

 最後の2行空き以降の文章とそれ以前の文書の関係がよくわかりませんでした。単に3人はあきの部屋で飲み会をして寝入り、宇一のことはあきの夢の中の出来事なのか、本当に3人は宇一と短い別れの時間を共有したのかが判然としません。

 

 もし、宇一のことがあきの夢の中での出来事なら、宇一と出会ったところからがすでに夢でなければつじつまが合いません。

 

 一方、本当に3人が宇一と短い別れの時間を共有したのなら、宇一が消え、出火を確認した時間が午後10時というのは不自然です。通夜ぶるまいが終わって家で飲み会をはじめたのが午後8時と仮定すると、クロッキー会となり眠りについて出火確認までに2時間しかありません。

 

 現実世界の出来事なら、3人が出火で目を覚ましたのはもっと深夜でなければ整合性がとれません。しかし、時間は午後10時以外に描写がありません。そもそも午後10時を設定する意味があったのでしょうか。

 

 時間設定のあいまいさが気になり、美術予備校生の日常生活を舞台にした作品の特長が薄くなってしまった印象です。私としては、時間軸を押さえたうえで、3人が実際に宇一と遭遇した流れでストーリーを深めてほしかったと思います。

 

 なお、本誌で類似の作品に「ラッツォクの灯」(熊谷達也)があるのを思い出しました。(感想文を書いていますので、よろしかったら、みてください)