わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

重松清「シリーズ『まなつ』第1話 キープ・スマイル」小説新潮2018年7月号

 例年、本誌7月号はその年の山本周五郎賞の決定発表の号です。あわせて、今年も歴代の同賞を受賞した作家による競作の特集がありました。今年は7作が収録されていました。(作品は末尾に記載します)

 

 いずれもそれぞれの作家の個性が光る秀作ぞろいで大いに堪能させていただきました。取捨に迷ううれしい悲鳴ですが、今月はその中から標記の重松氏の作品を取り上げます。

 

 登場人物は、父親・安西修平(32歳)、母親・美佐子(35歳)、長男・拓也(5歳)。この修平一家に長女「まなつ」が染色体異常で産まれます。

 

 初回ですので、人物設定もさりげなく描かれています。修平と美佐子は学生時代にアルバイト先で知り合いました。美佐子は修平が18歳の頃から知っていて、修平が不器用で頼りないことも知っています。いわゆる姉さん女房です。

 

 第1話はまなつの誕生を中心に修平の頼りなさが際立つ描写です。

 

 修平は人間関係が苦手、すぐに神経性胃腸炎になる、転職を繰り返すなど、決して仕事をがんばるタイプではありません。今の仕事にやりがいを感じているわけでもありません。早く帰ることを楽しみにしています。職場での人間関係も希薄です。長女が産まれたことを話すことも聞かれることもありません。作者はモチベーションの低いサラリーマンの特徴を如実に描写しています。

 

 まなつは一般の産院から総合病院に転院となります。病室に向かう修平はNICU(新生児集中治療室)を過ぎ、GCU(成長回復室)で寝ているわが子を認め、「よかったです。もし、あっちにいたら、どうしようかと思ったから」と担当の中村看護師に思ったことを口にします。

 

 しかし、その言葉を聞いた中村看護師からは、“赤ちゃんにとって「あっち」も「こっち」も関係ないこと、どこにいれば幸せでどこにいると不幸とか、勝ち負けは大人が勝手に決めつけているだけ”と厳しく言われ赤面します。

 

 さらに見当違いな発言が続きます。担当医師からこれから出現する障害のことを聞いた後のことです。中村看護師に「ふつうはどうなんでしょうね、ショックを受けて、泣いたりする人もいるんですか? 意外とみんな、冷静なものなんですか?」と話しかけます。

 

 これを聞いた中村看護師からは「赤ちゃんとパパやママの関係って、ぜんぶオリジナルです、オンリーワンです」と念を押されてしまいます。ここでも修平の認識は他人事です。

 

 これからまなつの療育が始まります。修平がこの現実にどのように向き合い、「成長」していくのか注目していこうと思います。

 

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【2018年7月号「歴代受賞作家競作」収録作品】

恩田陸 「楽譜を売る男」

今野敏 「荷物 隠蔽捜査外伝」

重松清 「キープ・スマイル」

篠田節子「寿老人」

帚木蓬生「胎を堕ろす」

原田マハ「豪奢」

米澤穂信「守株」

 

 因みに、今年(2018年・第31回)の同賞は、小川哲「ゲームの王国(上・下)」(早川書房)です。