わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

木内昇「深山町の双六堂」小説新潮2018年4月号

 平穏こそが美徳としていた一家がありました。一家は夫と主人公の主婦・政子、姑と二人の息子の5人家族です。 

 長男が尋常小学校に通っているので時代設定は昭和初期頃のようです。(ただ、その必然性は特に感じられません) 

 政子は次第に平穏とは単に平凡のことではないのかと疑問を持つようになります。そこで政子は離れの小部屋で密かに自分の家と近所の家との優劣を考課表にまとめる作業に夢中になっていきます。このこと自体がすでに異常ですが、物語は“平穏”に進行します。 

 ある時、夢中のあまり近所の漬物屋が訪ねてきた時に応対に出るのが遅れ、その現場を見られてしまいます。漬物屋はこのことは内密にしていたはずですが、後日、“双六堂”はここか?と見知らぬ人が訪ねてきます。以来、考課表は密かに評判を呼び、政子はますます熱中していきます。 

 “双六堂”の評判はついに近所の知るところとなります。追及されると、これはこれまでに相談に来た人の家の考課表だといって事なきを得ますが、比較の基準はどこかと聞かれ自分の家と答えます。すると隣人たちは憐れむように帰っていきます。 

 ここから物語は急展開します。政子は姑が買い物依存症であることを知ります。また、息子の学校から呼び出しがあります。息子は極度のいじめっ子でした。さらに、夫の不倫疑惑が近所や学校で流布されていることを知らされます。 

 逆上した政子は“不倫相手”である同僚の妻のもとに押し掛けます。しかし、真相は、夫が同僚に万年平郵便局員であることの愚痴を執拗に繰り返すので、愛想をつかした同僚が妻に愚痴の聞き役を押し付けたので、仕方なく愚痴の相手をしていただけということがわかります。 

 作者は何の光明も示していませんので、家族崩壊が一気に表面化しそうな結末です。作者が伝えたかったメッセージが不明です。シュールな終わり方に“寒さ”だけが残る作品でした。