わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

薬丸岳「刑事弁護人」(第11回)小説新潮2018年1月号

 この作品は、1回あたりの掲載分量が多くないので、各回に小さな山場を持ってきて臨場感を持たせるような設定ではありません。しかし、単行本で通読できるようになれば、よくできた作品になる気がします。徐々に事件の全容が明らかになっていきますので、推理小説の王道を行く作品といえると思います。 

 事件はホストクラブ通いをしていた埼玉県警の現職警察官・垂水小枝子(31歳)がホストの加納怜治の自宅で加納を近くにあった酒瓶で殴り、致死させてしまったというものです。しかし、本人は暴行されてとっさに取った行動として強く殺意を否認しています。 

 主人公は持月凛子(もちづきりんこ)。今回の事件を担当する弁護士です。しかし、世間の注目を集めている事件でかつ否認事件は初めてです。不安の中で弁護活動が始まります。 

 一人での弁護が不安で所長に助力を頼みますが、所長が推薦したのは同僚の西大輔弁護士です。凛子は西の弁護活動に不信感を露わにしますが、西の視点が事件解明のヒントになる場面が数多く出てきます。読者は西の言動に要注目です。 

 西はもともと埼玉県警の刑事でしたが、毛呂岡事件という冤罪事件をきっかけに刑事を辞めて弁護士になったことが明らかになってきます。毛呂岡事件の概要はまだ明らかになっていません。 

 小枝子の取り調べを担当したのが、埼玉県警捜査一課の日向清一郎(ひなたせいいちろう)です。日向は小枝子とも一緒に事件を担当したことがあります。また、日向は西の元同僚だったということも明らかになってきます。西と日向の関係もまだ詳らかになっていませんが、何やら微妙な因縁がありそうです。 

 そのほかの主な登場人物には、凛子の司法修習生の同期である須之内美沙検事がいます。美沙はこの事件の担当検事の一人になります。凛子と美沙の対決の場面もありそうです。 

 物語は、弁護士による弁護活動の視点を中心に、警察による被疑者の勾留、取り調べ、検察庁による起訴に至るまでを詳細に描いています。 

 公判までの手順や対応方法に興味を持ちましたので、整理の意味で作中に出てくる事柄を大まかに記してみたいと思います。

1 当番弁護士センターから小枝子の当番弁護士派遣の依頼がある。

2 接見し、本人の承諾を得て、弁護士選任届を提出し、凛子が正式に担当弁護士になる。

3 勾留状謄本請求をして内容を把握する。

4 接見禁止決定の取り消しを求める準抗告申立書を提出する。(却下される)

5 配偶者など人物を特定しての接見を認めるよう一部解除の申立書を提出する。(却下される)

6 黙秘を貫くよう助言する。

7 被疑者ノートを差し入れし、取り調べの内容を記録しておくように助言する。

8 可視化申入書を提出し、不当な取り調べがないかを牽制する。

9 親族が接見できないので勾留理由開示請求書を提出し、親族が傍聴席から被疑者の姿を見られるようにする。

10 勾留理由開示の場が持たれる。その場で凛子が求釈明書に沿って質問し、意見陳述の場面で勾留の不当を訴え、小枝子は無実を訴える。

11 起訴状が届く。

12 小夜子が留置場から拘置所に移送される。

13 公判前請求手続きに移る。公判前請求手続きとは、裁判の充実と迅速化のために裁判官、検察官、弁護人が公判前に事前に協議し、証拠や争点を絞り込んで審理計画を立てることです。 

 今月号の第11話では、別の案件が明らかになっていきます。西は、加納が昨年3月に3万円の現金を民家から窃盗した前科があることを突き止めます。その時に小川署が加納を逮捕しています。一方、小枝子は2年前に小川署の刑事課に勤務していたことが明らかになってきます。西は小枝子が加納の罪状や事件について何か隠していると睨み始めます。 

 また、公判前請求手続きでの検事の証拠書類の開示があります。証拠書類には、ホストクラブ同僚の大隅健太(26歳)の供述があります。 

 大隅の供述からは、一緒に店を出たときに、加納と小枝子との会話から「次の非番は水曜日」「3時に駅前の喫煙所で」と断片的に聞こえたこと。さらには、小夜子を尾行し、住所と名前を調べてほしいと頼まれたこと。その際に、弱みを握っていて、脅迫しようとしていたのではないかと思ったことが記されています。凛子と西は小枝子から聞かされていない供述に愕然として第11話が終わります。 

 周辺状況も物語を豊かにしています。凛子の父親も弁護士で弁護活動の逆恨みで刺殺されたこと、小枝子の3歳の一人息子が病気で急死していること、小枝子の夫・輝久が事件記者であること、誘拐事件の被害者の母親を小枝子が懇切丁寧に見守ったことなどがあります。 

 この後の展開を静かに待ちたいと思います。