わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

今野敏「棲月 隠蔽捜査7」(最終回)小説新潮2017年8月号

 久々に隠蔽捜査シリーズを取り上げます。今回のシリーズも例によって、事件を中心に竜崎の私事が同時並行ですすんでいきます。 

 今回の事件は、サイバーテロとリンチ殺人事件です。同時並行ですすむ私事は、主人公である大森警察署長・竜崎伸也自身の人事異動と長男・邦彦のポーランド留学です。 

 物語は、はじめに大森署管内を通っている私鉄の運行システムがダウンしたことから始まります。その後、間髪を入れずに銀行のシステムがダウンしているとニュースが入ります。 

 一方で、管内でリンチ殺人事件が発生します。被害者は玉井啓太 18歳。不良グループのリーダーです。 

 リンチ殺人事件は、玉井に脅されていた芦辺雅人(あしべまさと・16歳・高1・引きこもりがち)が玉井に復讐すべく玉井グループの手下の少年たちをSNSや偽メールで恐怖に陥れ、コントロール下に置き、玉井を殺害させたものです。 

 芦辺はネット界で都市伝説となっている「ルナリアン」を名乗って、少年たちを恐怖に陥れ、マインドコントロールをしました。芦辺は自らの実力を証明するために、サイバーテロを敢行してみせたのです。 

 竜崎は、この2つの事件を部下の報告や見方を総合して、同一人物の犯行であることを見抜き解決に導いていきます。 

 さて、竜崎の私事では、長男・邦彦のポーランド留学が予定より早まります。当シリーズの読者ならご存知のことですが、邦彦こそ、竜崎が警察庁長官官房総務課長から警視庁大森署長に降格処分となり、このシリーズが始まるきっかけとなった人物です。その邦彦がよくぞ留学までこぎつけたかと思うと感慨があります。 

 また、このシリーズの活動拠点は大森署ですが、竜崎は大森署を遂に異動することになります。 

 竜崎は事件解決のためなら警察の階級や慣習を歯牙にもかけない超合理主義者です。また、私生活でも合理主義は徹底しています。そのため変人扱いされていますが、階級や慣習にとらわれず部下の意見を尊重する竜崎の態度は徐々に部下の信頼を得るようになっていきます。竜崎自身が大森署勤務をとおして、感情の機微を多少は理解できる人間に“成長”したことを自覚して物語を完結しています。 

 当シリーズ・7作目は第1部完結編ともいえるべき節目の作品となりました。ファンとして今シリーズの完結をお祝いします。 

 次の勤務先は神奈川県警で刑事部長です。神奈川県警はこれまでのシリーズでは警視庁との確執の中で竜崎が事件解決を主導した因縁のある県警です。その地でいよいよキャリア官僚としての新たな竜崎伸也に期待ですね。どのような展開になるのか次のシリーズを心待ちにしたいと思います。