わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

永井紗耶子「つはものの女」小説新潮2017年4月号

 今月号で最も好ましく感じたのがこの作品です。この作品は2016年10月号に掲載された「いろなぐさの女」の連作となりました。前作にも惹かれるところがありましたのでシリーズ化はうれしい限りです。 

 はじめに、作品の理解を助けるために、登場する大奥での役職について簡単に触れておきます。

 

御年寄(おとしより)

大奥の万事を取り仕切る事務方のトップ。幕府の老中に相当。国でいえば内閣官房副長官ぐらいでしょうか。

 

御中臈(おちゅうろう)

将軍や御台所(みだいどころ・将軍の本妻)の身辺の世話をする役職。若くて才色兼備。この中から将軍の側室が選ばれます。相当に上位の役職です。

 

表使(おもてづかい)

御年寄の指示で大奥での物資調達を表の役人(広敷役人)に伝え折衝する役職。大企業の部長級ぐらいでしょうか。

 

御祐筆(ごゆうひつ)

御年寄の指示で一切の公文書管理を担当。大企業の課長級ぐらいでしょうか。

 

呉服の間(ごふくのま)

将軍や御台所の衣装仕立て係。大企業の課長級ぐらいでしょうか。

 

 いずれも将軍や御台所に目通りができる「御目見以上」(おめみえいじょう)の上級官僚です。 

 さて、今回の物語は、12歳で大奥に上がって20数年ひたすら出世することを目標に祐筆まで上り詰めた「お克」のもとに表使の後継となる女中探しの話が舞い込みます。同じ話は呉服の間の「お涼」にも向けられます。 

 表使の「初瀬」はどちらを自分の後継にするか2人を対面させ、広敷役人にそれぞれに別の案件で御年寄からの出費依頼の折衝を課します。お涼は四苦八苦し意に沿うよう折衝します。しかし、お克はそもそもの出費依頼自体が御年寄の身勝手な要求であると批判したので、口頭試問の席が破綻してしまいます。 

 初瀬が退席したのちに、お克は言い過ぎたことを反省し、お涼は適任ではないと悟り、両者は認め合います。前作ではお涼が主人公でしたので、前作を読んでいる人ならお涼が人格者で情の人であることはわかっていると思いますので、競わされた女同士が醜い争いをしないことは理解できると思います。 

 後日、すっかり諦めていたお克のもとに初瀬からお克を後継見習いにする旨の連絡があります。情のお涼より理のお克が選ばれた格好です。初瀬は表使とは単なる伝達係りではなく、己の目で見て理に叶うか否かを殿方に伝えることが肝要と説きます。お克は初瀬の偉大さと表使の奥の深さを感じ、自らの進むべき道を定めていくところで物語は終わります。 

 大奥物というと、女同士の陰湿な足の引っ張り合いや嫉妬を描いているイメージがありますが、このシリーズは大奥で、ある者は人生の大半を過ごし、寝食を共にして勤める女性の“企業小説”といえます。大奥で働く女性の日々を素直に描いていて読後感が悪くありません。今後のシリーズ化が楽しみです。