わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

乙川優三郎「R.S.ヴィラセニョール」(第2回)小説新潮2016年8月号

 この作品は2016年7月号から連載が始まっています。主人公はレイ・シトウ・ヴィラセニョール(日本名 市東鈴・しとうれい)。フィリピン人の父・リオ・ヴィラセニョールと日本人の母・市東君枝の間に産まれたメスティソスペイン語 混血児)です。レイは美大で染色を学び、曾祖父の故郷・房総半島の御宿(おんじゅく)海岸に一人で工房を構える駆け出しの染色家です。 

 まだ連載2回目ですので、今後どのように展開するのかわかりませんが、モチーフは、フィリピン人と日本人のハーフであるがゆえに子供のころから蔑視や中傷の中で育ち、卑屈な心を克服できないレイが染色家として自立してく中で葛藤を克服あるいは受容していく過程を描くのではないかと思います。

 ストーリーの背景に染色の工程や江戸更紗(さらさ)、新たな意匠の創造など染色工芸の描写があります。染色の記述も重要なモチーフになっているように思います。 

 物語には、恋愛に発展しそうな登場人物が二人います。一人は美大の先輩・根津広夢(ひろむ)です。根津は裕福な家庭に育ち日本画が専門で現代琳派を自称しています。もう一人はメキシコ人の父と日本人の母をもつロベルト・アライ・モンテスです。ロベルトはメキシコから来日し御宿に住み草木染で染糸を生業としています。レイの佳き理解者・協力者です。どう見ても陰気で気難しそうな根津より、大らかなロベルトの方が好感が持てますが、さてどのような展開になるのでしょうか。 

 今後、日本とフィリピンとメキシコの風土と文化を絡めてレイの新たな芸術、恋愛、自立が描かれていくものと思います。静かに期待しています。 

 それにしても、いつもながら乙川氏の文章は詩情をかき立てます。「闘う必要のない相手と眺める海は心なしか大きく見えて、ひとりのときより優しい。」こんな美しい文章を見たことがありません。