わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

伊吹有喜「カンパニー」(最終回)小説新潮2016年7月号

 この作品は2015年4月号から連載され、いよいよ今月号で最終回となりました。これまでに2回感想を書いていますが、最終回もやはり取り上げます。 

 物語は、リストラ要員となった43歳の青柳誠一が縁もゆかりもないバレエ団に出向するところから始まります。加えて妻からは突然の離婚通告です。 

 青柳は大企業の組織に守られて、可もなく不可もなく今日まで仕事をこなしてきたというところでしょうか。何となく色白でお腹が出始めてきた人のよさそうな中年サラリーマンを勝手に想像し物語を読み始めました。 

 ストーリーは、青柳が未体験のバレエの世界で様々な困難に遭遇し、悩みながらもアイデアを出し、どうにか乗り越える過程で公私とも自立していく姿を描いたものです。 

 最終回では、バレエ公演で葛藤に打ち克ち見事代役を務めた高崎美波のこれからのこと、同じくリストラ要員となって当初不本意ながら世界的なバレエダンザー高野悠(はるか)のトレーナーを始めた瀬川由衣が次第に高野を敬愛するようになり、公演後は会社を辞めてトレーナーとして再出発すること、青柳は別の部署からのオファーで会社に復帰できたこと、青柳が頼みとしていた上司が落ちぶれてしまったことなどが清々しい高揚感で描かれていきます。 

 特に印象に残ったセリフがあります。美波は青柳が「好きだと思うよ」と高野が言ったセリフに青柳が「おじさんは一ファンで充分です」と否定した時の高野のセリフが好いです。 

 「たしかにある程度の年齢になると、昔なら恋愛にガッと踏み込めるところが、踏み込めなくなるよね。相手が若いと何も言えなくなることも」「だけど理性ではわかっていても、どうしようもなく人を恋うときってあるもので。お互いそのときは躊躇せず進みたいものだね」 

 このセリフは青柳への投げかけを装い自らへの叱咤激励のようです。これまでの回で高野はバレエダンザーとしての寿命があまり長くないと密かに苦悩していることと、由衣がアスリートとして挫折しトレーナーとしての進路で苦悩していることを共有する場面がありましたので、(本当は全く別の女性のことかも知れないのですが)高野が由衣に恋しい気持ちを持ち始めていると期待してしまいます。 

 また、美波のようにきれいで才能が開花しつつある若い女性が中年男に恋することがあってもいいではないかという願望を持たせます。作中では青柳は今が崖っぷちの人生であることを受け止めながらも、バレリーナとしての美波の生き方について誠心誠意悩みを聴いていましたので、美波が青柳に好意を持ってしまうのは当然の成り行きであると賛同してしまうのです。 

 青柳は自分がどんなに疲れていても来所者に即座に椅子を差し出せる気配りのできる人です。別れた元妻が復縁を匂わせますが最早元妻を頼る人間ではなくなっています。また、離婚当初は一人娘にウザいと思われていましたが、徐々に自立していく中で娘が自然と寄ってくるようになります。美波のセクシャルな挑発に動揺したこともありますが、大人の分別で美波の成長を見守れる人物だと思います。 

 挫折を経験した青柳は持ち前の気配りに加えて、事業面でも企画運営できるビジネスマンに脱皮しましたので、これからの活躍が予見できる結末です。 

 色白でぷよぷよしていると勝手に想像していた青柳が最終回では引き締まってみえるのは作者の筆の冴えといえます。心地よい作品をありがとうございました。