わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

藤岡陽子「水曜日はロードショー」小説新潮2016年6月号

 この作品は、1年前(2015年6月号)の「木曜日の憂鬱」が連作となって復活したのでうれしくなりました。前作も心に残った作品でしたので、このシリーズ化は大歓迎です。1年の間隔を空けて続きが読めるのは、目まぐるしく時が過ぎていく今日にあって、知る者だけが知る至福の時間です。 

 今回の主人公は松下和音30歳。大学病院に入職して9年目の看護師です。同期が主任に抜擢されたり退職していく中で、平ナース生活を不満なく送っている設定です。 

 物語は、イケメンで看護師間でも絶大な人気のあった入院患者・秋吉純が手術中に脳出血を起こし、1年近く植物状態になっているところから始まります。 

 和音は秋吉に口腔ケアや清拭、洗髪、体位交換、拘縮予防マッサージ、語りかけなどを献身的に続けます。植物状態の秋吉に対する和音のひたすら続くケアは、和音だけの甘美な時間として描かれていきます。 

 先輩看護師の櫻井佳澄は、和音のしぐさからケア以上の感情を見抜いていますが、患者と看護師以上の関係にはなれないことを忠告しながらもやさしく見守ります。 

 ケアを続けている期間中は、映画関係の仕事をしている秋吉との共有関係を夢想し、水曜日のオフは映画を見続けます。 

 最後には奇跡的に秋吉の意識が戻ります。両親の和音への感謝のことばと、和音のことを何も知らない秋吉の表情、植物状態だった時に病院の医療スタッフと密会していた婚約者が何事もなかったかのように退院準備をし、秋吉の知らないところで婚約関係を復活させる様などが集約的に描かれていきます。映画を観ることもなくなります。このことは和音だけの秋吉との特別な時間が終わったことを象徴する描写です。この作品のキーになる部分といえます。 

 秋吉への思いを切り替え、本来の患者と看護師の関係を再構築し、職務をこなしていく姿にプロの自覚を感じました。あとはプライベートで幸せな出会いがあることを祈りたいですね。1年後にまたこのシリーズにお目にかかれる日を楽しみにしています。