わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

朝井まかて「眩(くらら)」(最終回)小説新潮2015年11月号

 今月号(2015年11月号)で心に触れた作品の3作目は「眩(くらら)」(朝井まかて)を取り上げます。この作品は2014年12月号から始まり、今月号の12回目で最終回を迎えました。 

 皆さんは葛飾応為(おうい)と言う名の浮世絵師をご存知ですか。応為は葛飾北斎の三女で名は「お栄」と言います。この作品は葛飾応為の半生を描いたものです。応為の作品は10作ほどしか現存していないようです。作中のお栄の人となりは、ウィキペディアwikipedia)の記述にほとんど見い出すことができます。たぶん実話もそれほど残っていないのだと思います。 

 お栄は、器量は良くなく、はっきり言って粗野です。絵に没頭すると、身の回りの整理も自らの衣装もお構いなしになります。ひたすら父北斎の工房で北斎の描く絵の彩色を分担しています。 

 作中では、修行仲間の善次郎、画号・渓斎英泉(けいさいえいせん)との仲を唯一のロマンスとして儚く描きます。また、作中では、独立した絵師にならんと苦悩する過程が「三曲合奏図」(さんきょくがっそうず・ボストン美術館蔵)の完成にむけて描かれます。さらに、最終話では、「吉原格子先図」(よしわらこうしさきのず・浮世絵太田記念美術館蔵)の作成過程をとおして、晩年のお栄の絵師としての総括を描いていきます。テーマは「光」といえましょう。 

 浮世絵について日本史の教科書程度の知識しかない私には、「吉原格子先図」は驚嘆すべき作品です。江戸も後期になると浮世絵の中には西洋画の影響が色濃く取り込まれていく作品が出てくるのですね。 

 北斎は90歳で亡くなりますが、お栄の介護を受けながらも絵筆を執っていました。そのときはお栄もすでに60歳前後になっているはずです。北斎亡き後の晩年は、支配勘定に出世した弟・崎十郎(さきじゅうろう)の屋敷に居候します。最後は、武家屋敷住まいの息苦しさから解放されたくて、漂泊の旅に出るところで物語を終えます。 

 連載小説では時として最終話が拙速し詰まり過ぎて余韻が伝わらない作品があります。こうした作品の場合は、単行本にするときにたぶん補筆をするのだと思いますが、この作品は十分余韻をもって描かれています。読了にあたり、晩秋の日差しが差し込む午後の窓辺で至福のひとときを過ごさせていただきました。ありがとうございます。