わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

伊吹有喜「カンパニー」(第7回)小説新潮2015年11月号

 今月号(2015年11月号)で心に触れた作品の2作目は「カンパニー」(伊吹有喜)です。この作品は2015年4月号から始まっていて、初回のときに感想と期待を書いていますが、再度触れてみたいと思います。

 主人公の青柳誠一は有明製薬のリストラ要員として敷島バレエ団に出向しています。有明製薬は社名変更のCI戦略の一環で、世界的なダンサー・高野悠(はるか)を招いて敷島バレエ団で年末にバレエ公演をすることになっています。

 その後、もう一人のリストラ要員が登場しています。瀬川由衣です。由衣は30歳ぐらい。美人ランナー鈴木舞のチーム「プロジェクトMAI」の専属トレーナーでしたが、舞の突然の妊娠引退で有明製薬から出向していた由衣は一遍にリストラ要員となってしまいます。由衣は青柳と同じ敷島バレエ団に出向し、不本意ながら高野のトレーナーをすることになります。

 由衣は、フランスに帰ってしまった高野を追い、いよいよ高野との関わりはこれが最後かと思い、バレーボールで天才少女セッターと言われながらもトップアスリートになれなかった自らの挫折体験を語ります。由衣が「努力」「情熱」「仲間」だけでは乗り越えられない壁があることを高野に淡々と語る場面には感情移入してしまいました。

 一方、高野も当初、体を触れられることを嫌って由衣を遠ざけていました。しかし、自らのダンサーとしての寿命が近付いていることから、由衣の挫折体験の話は高野に心境の変化をもたらします。また、試しに施術してもらった由衣のトレーナーとしての的確さを認めるようになります。

 由衣はこれまでに体感したことのない高野の筋肉の動きに「王者の才能」を見出します。真のトップアスリートだけが生まれながらに持っている特別な才能のことを由衣は「王者の才能」と呼んでいます。由衣は高野の身体から筋肉が最も美しい位置に戻っていく感覚をもう一度実感したくて本気で高野のトレーナーをしたくなります。

 ところが、困難は容赦しません。青柳が起死回生のアイデアとして考えたバーバリアン・スピリッツの水上那由多(なゆた)を主役にして、腰の悪い高野を負担の少ない脇役に据える白鳥の湖ですが、思うようにチケットの売り上げが伸びません。若手アイドルが主役で敷島瑞穂による新解釈の白鳥の湖では正統派のファンが敬遠したことなど4つの理由が挙げられます。さてこの後どのように困難を乗り越えるのでしょうか。

 高野は努力、情熱、仲間をレッスン、パッション、カンパニーと言い換えました。レッスンとパッションで幾多の困難を乗り越えて、カンパニーが年末の公演に向けて走り出すことを期待しています。