わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

山本一力「カズサビーチ ようそろ」(第10回)小説新潮2015年11月号

 最近の小説新潮は500ページを切ることが多く残念ですが、連載小説は私好みの作品が目白押しで大いに満足しています。そこで、心に触れた作品の中から三作を三回に分けて感想を書いてみたいと思います。

 

「カズサビーチ ようそろ」 山本一力

 

 この作品については、2015年2月号の連載2回目の時に一度触れています。今月号で第10回目の連載です。これまでの連載では部構成については特に表記はありませんが、大きく3部に分かれています。

 

 第1部は、アメリカ東部ロングアイランド捕鯨基地・サグハーバーでの場面です。捕鯨船マンハッタン号のマーケイター・クーパー船長のもとにペリー提督が訪れて、クーパー船長が鳥島沖で相次いで2隻の日本人漂流民計22人を救助した時のことをヒアリングし、マンハッタン号が出航するまでといえます。アメリカ東部の寂れゆく捕鯨基地の描写が古き良きアメリカの人物と風景を想像させます。

 

 第2部は、マンハッタン号がいよいよ太平洋に出て日本人漂流民を救助し、日本に向かうまでといえます。外洋の潮の香りや捕鯨船の臭い、水夫の体臭、料理の匂いなど、様々なにおいを彷彿させます。また、漂流した水夫の描写には緩いところはなく、作者の筆には安定感が感じられます。

 

 第3部は、まだ連載中なので何とも言えない部分はありますが、漂流民を本土に戻すまでを描くのではないかと思います。先月号(10月号)ではいよいよカズサ(上総)ビーチ沖にマンハッタン号が現れました。幕末で既存の価値体系が崩れつつある中で、異国船の監視をする奉行所役人の判断や、先遣隊として救助を求め上陸した水夫の言動や行動が緊張感を持って描かれています。

 

 ジョン・万次郎はこれらの漂流民より4年前に同じくアメリカの捕鯨船鳥島で救助され、その後、アメリカで教育を受けて、黒船で通訳として日本に戻ってきますので、この過程を描いた同氏の「ジョン・マン」(講談社刊)と合わせて読むと興味が倍増するはずです。

 

 物語は終結に向かっていると思いますが、このままいい作品に仕上がると思います。大いにお勧めします。

 

(次回は11月10日にアップします。)