わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

小笠原慧「潔癖症 メンタルクリニック物語」小説新潮2015年6月号

 6月号が医療小説の特集号となって今年で4年目を迎えました。このシリーズは今年で3回目です。久坂部羊氏、知念実希人氏、仙川環氏の作品と並んで毎年楽しみにしています。 

 今回の作品は、題名のとおり潔癖症を主訴とした女子大生・浅木萌真(もま)の潜在的潔癖症要因をめぐってストーリーが展開されます。主人公は25歳になる新任の臨床心理士・森野美夢(みゆ)。今作品では奥田メンタルクリニックに勤めて1年が経過しました。 

 作品は、美夢の臨床心理士としての成長物語といっていいと思います。作品の構成要素には、美夢の夢占いと心理療法があります。夢占いはシリーズを通じて基軸となっています。また、シリーズごとに特定の心理療法が出来事(インシデント)の解決手法として紹介されます。この心理療法の記述は、知的好奇心を掻き立てられます。今回登場する心理療法は行動療法です。 

 そこで、この作品で扱われた行動療法の部分について、自身の整理のために触れておきたいと思います。

 正確でないことや完璧でないことに対する恐怖は不完全恐怖。院長・奥田の診たては、萌真の場合は潔癖症のあとに不完全恐怖が出てきたので当面、不完全恐怖は無視することにしました。主要因が解決すれば副次的に表れた要因は解決するからだとしています。そこで行動療法が登場します。慣れるという現象を利用した治療法がエクスポジャー(暴露療法)。行動心理学では不安は5分から20分くらい過ぎると落ち着いてくるとしています。これを「脱感作(だっかんさ)」というようです。系統的脱感作療法の取り組みとなっていきます。易しいところから徐々にバーの高さを上げていくやり方です。 

 萌真の場合は80%達成可能な目標として、最初は自宅から大学に向かう1駅だけ乗ってみるというものにしました。そこで家に帰ってから着替えても、シャワーを浴びても、手を洗っても構わない。あくまで目標なので達成できなくても構わないとしました。そしてその記録をつけるというものです。 

 ストーリーは、この系統的脱感作療法により症状が改善したことと、潔癖症の原因が離別した父親と再会後に父親から性的関係を強要されたことと語られますが、実はそれは虚偽で、父親との再会以前に援助交際をしていたころから潔癖症の症状が出始めたことが明らかになり、終結へ向かいます。