わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

小笠原慧「母子カプセル メンタルクリニック物語」小説新潮2014年6月号

 この作品は、昨年(2013年)6月号の医療小説特集で掲載された「ビューティフル・ドリーマー メンタルクリニック物語」の連作です。1年ぶりの登場です。連作に発展したようで嬉しくなりました。私は若い人が新たなスタートをきるテーマは好みです。

 これからも続くことを願って、昨年の「ビューティフル・ドリーマー」をおさらいしておきます。

 物語は、主人公の森野美夢(みゆ)の就活の場面から始まりました。美夢は心理系としては歴史の浅い大学院で学び、臨床心理士希望で就活中です。就活はすべて失敗で季節はもう2月終わりごろ。1件の求人広告をネットで見つけ、即応募。新規開設のメンタルクリニックの採用面接に漕ぎ着けました。採用面接での美夢の必死のアピールがコミカルです。美夢は苦し紛れに得意なことは夢を見ることだと返答します。見た夢を夢辞典で調べ夢占いをすることが作品のモチーフになっています。

 美夢は採用となり、新米の臨床心理士がスタートします。初回の心理的事象は解離性障害のあるクライアント(患者)を解決志向アプローチで問題解決に導いたケースを扱っていました。解離性障害とは向き合いたくない現実から逃避するために意識や記憶を失って辻褄が合わなくなってしまうことです。また、解決志向アプローチとは、「問題やその原因、改善すべき点」を追求するのではなく、解決に役に立つ「リソース=資源(能力、強さ、可能性等)」に焦点を当て、それを有効に活用する心理療法です。(一般社団法人日本臨床心理士会

 作品ではこの解離性障害の事象に美夢の夢占いを織り交ぜて小説仕様に仕立てています。

 

 登場人物を整理しておきます。

奥田メンタルクリニック院長

 奥田

受付事務

 藍野さん(秘書風の女性で元客室乗務員)

 駒野さん(30代後半、女性、事務の要)

心理スタッフ(3人)

 三宅さん(手際よいインテークの他に今のところあまり描写がありません)

 佐々木さん(30代男性、繊細だが余韻を感じさせる面接をします)

 森野美夢(主人公・新卒の臨床心理士

PSW(精神保健福祉士)(2人)

 牧原さん(女性・完璧なインテーク・謎の人物)

 柿沼さん(30代男性・スポーツマンタイプ・癒し系)

看護師

 村上さん(豊満な体とソプラノヴォイスでクリニックのムードメーカー)

 

 今回の作品は、題名のとおり「母子カプセル」がテーマです。母子カプセルとは母子が共依存してしまい結果的に子供の自立を阻害してしまう心理的事象です。作品は母子カプセルの典型的な事例テキストのようでした。

 物語は中1の息子が荒れているという母親からの相談からスタートします。美夢はインテーク(受付相談)の係です。荒れる真の原因が両親の離婚にあったことをカウセリングの中で明らかにし、そのことを母親が否認し受容するまでの心理過程を描いています。また、今回の作品でも美夢の夢占いが解決の糸口となります。

 この連作は心理的な事象をテーマに取り上げ、そこに美夢の「夢の辞典」が解決の糸口を見出すという構図かも知れません。まるで、水戸黄門の漫遊記と葵の印籠のようです。ただ、水戸黄門なら、うっかり八兵衛由美かおるかげろうお銀が主役となることもありましたので、展開のワンパターン化を防ぐには、三宅さんや牧原さんが主役になる展開があってもいいですね。あわせて、美夢の臨床心理士としての成長も見てみたいですね。次にお目にかかれるのは1年後でしょうか。どのような展開になるのか楽しみにしています。