わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

仙川環「看取り」小説新潮2014年6月号

 本誌で医療小説の特集が始まったのは2012年6月号からで、今年で3年目になります。日本医師会が日本医療小説大賞を創設したのを機に本誌で医療小説の特集が始まりました。 

 医療小説というと医師や入院患者を題材とした作品をイメージしがちですが、今月号の医療小説特集は、訪問看護師、うつ病の医師、新米の臨床心理士発達障害傾向のある天才医師、と題材は多彩です。医療小説の広がりを感じ、特集号として成長期に入った感があります。

 

 以下、順次、感想を書かせていただきます。

 

「看取り」 仙川環 

 この作品は、看護師が6年間勤めた病院を辞め、訪問看護ステーションを開設し訪問看護をする様子を描いています。

 

 状況設定がリアルでわかりやすい設定です。舞台は、主人公・西園美也子が勤めていた首都圏近郊の中小病院です。まず、病院経営の現状についての描写があります。経営環境の悪化と、そのことにより職場のモチベーションが低下し、看護師の離職が相次いでいます。そこに、病院経営に関連のある企業出身の医療コンサルの社員・倭島英雄がそのまま病院職員となって勤務しています。美也子は自分が理想とする訪問看護ステーションは資金難と人材確保難から結局、フランチャイズ訪問看護ステーションを開設することになります。このフランチャイズは倭島が紹介したことが物語の伏線になっています。 

 終末期の胃癌患者・内村寛介を病院で診るか、在宅診療にするかで看護部長と院長で見解が分かれる場面が出てきます。看護部長は美也子が経営する訪問看護ステーションは倭島が関係している系列の事業所であることに嫌悪感をもっていることも手伝って、病院診療を主張します。また、院長が在宅診療を主張することに経営者としての才覚に不信感をもっています。看護師の離職が相次ぐなか、看護部長の焦燥感をサポートできる人材がいない中小病院の人材マネジメントの薄さに心が痛みます。 

 状況設定のあとは、訪問看護の描写になります。患者・内村寛介(86歳)は気難しい性格。介護をするお嫁さん保子も60を超えていて腰痛と高血圧があります。夫の毅は介護はしませんが父親の最後は在宅看護を主張しています。このような家庭状況のなかで訪問看護となります。寛介が気難しい性格というのは真の姿ではなく、話をしていくと寛介の本当の気持ちは嫁に迷惑をかけたくないので、無理に難癖を押し付け嫌われれば病院に入院できるのではないかと思っての言動だったことがわかります。訪問看護師として看護をすることと、寛介や保子の気持ちに寄り添い真のニーズをくみ取ろうとする描写はソーシャルワーカーでもあります。 

 さらに小説性を高めるために、一つの出来事を挿入します。倭島から美也子に訪問看護ステーションの活動について取材依頼の話が持ち込まれます。この取材依頼については倭島の営業戦略ではないのかと疑念を持ち、取材依頼を断ります。倭島は寛介が亡くなったことを知り、記者に保子を紹介します。保子は美也子から受けた訪問看護に感謝する内容のことを記者に話し、このことが大きく記事となります。美也子は一瞬、倭島に憤慨しますが、自分が寛介一家に提供した看護の事実の方が心のなかで大きくなり、プロ意識を深めていくところで物語を終えます。 

 訪問看護のPR小説のような印象はありますが、病院業界や訪問看護の実態を知るうえで参考になる作品でした。