わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

阿刀田高「たずたずし 絵のない肖像1」(新連載)小説新潮2014年1月号

 「たずたずし」とは、「はっきりしなくて不安である」「おぼつかない」「心細い」の意味で「たどたどしい」の古形です。当然のことながらこの「たずたずし」が作品のキーワードになっています。作品のストーリーをひとことで言うと、絹子が40歳過ぎて結婚し産んだ雄一が夫との子供ではなく、同時に付き合っていた滝田との子供かもしれないと、「たずたずし」く思うところで結ぶ作品です。 

 ただ、作品に意味のある素材と意味のない素材が混在していて、ストーリーが散漫な印象を持ちました。まず、展開に意味のある素材は次のとおりです。 

 1つは、母親が耄碌(もうろく)してのではないかと絹子が勝手に思っていること。

 2つは、絹子が大学で源氏物語の授業をもっていること。

 3つは、源氏物語光源氏が多くの女性遍歴をたどる作品であること。

 4つは、絹子が大学の恩師で16歳年上の塔先生と結婚し、雄一を産むこと。その後、雄一が2歳の時に夫は病死すること。

 5つは、塔先生とお付き合いがすすむ間にも写真家の滝田との付き合いが継続していたこと。

 6つは、ぼけ始めたと思っていた母親が「雄一は塔さんに似てないわね」ということ。

 7つは、雄一は滝田との間の子供かもしれないと「たずたずし」く思い終結すること、となります。 

 一方、作品に意味のない素材は次の2つです。 

 1つは、絹子が病弱であったこと。そのために22歳で大学に入学したことがあります。病弱であったことが全体の展開に特に意味をなしていません。十代は病弱で大いに青春を謳歌できなかったから健康になってから青春を取り戻す潜在意識が働いて恋多き女性となったというような展開でもあれば納得できますが何も関連がありません。 

 2つは、塔先生と結婚するまでの間に、33歳のときから3年間付き合ったに木村、38歳の時に2年間付き合った万葉集研究者で30歳の近藤君、夫が病没後に付き合った心理学科講師の竹村君との男性遍歴を描写していることです。これらも特に意味がありません。あえて言えば、近藤君との付き合いで「たずたずし」が登場してくる万葉集の句に「夕やみに路(みち)たづたづし月待ちて行きませ吾背子(わがせこ)その間にも見む」(道が暗くてはっきりしないから、わが背子よ、月を待って明るくなってから行きなさい、そのあいだもあなたのことを見ていたいから)を登場させたことと、最後に竹村君に「頭がたずたずしくなって・・・」というセリフを言わせるためだけです。これらの男性遍歴は光源氏の女性遍歴との対比で登場させたのだと思いますが、そもそも源氏物語の研究者というだけで、普通の中年女性の男性遍歴を光源氏の女性遍歴と対比させることにあまり意味がないように思いました。 

 作者はストーリーに関連する源氏物語のエッセンスを絹子の大学の授業に絡めて次のように整理しています。 

 ある御代の天皇が桐壷更衣(きりつぼのこうい)を溺愛し、光源氏が産まれます。桐壷は後宮の女たちの激しい嫉妬の中で死に、天皇は悲嘆に暮れますが、桐壷そっくりの藤壺を入内させ寵愛します。ところが、源氏は藤壺と密通し、男子が産まれ、その子は天皇の御子として育てられ後の冷泉帝となります。 

 雄一が滝田との不義の子供であることを暗示させて物語を終えていますが、この源氏物語の部分とシンクロさせているのだと思います。ただ、あまり趣味が良くないですね。 

 また、本作品の編集者は、キャプションで「たびたび食い違う、絹子と母親の記憶。絹子は、それを母親が耄碌したせいだと思っていたが・・・喜、怒、哀、楽・・・次に待ち構えるのはどんな表情か、熟練作家が毎月あなたの心を震わせる。」とありましたが、この作品に限って言えば、心は震えませんでした。 

 シリーズ名である「絵のない肖像」とは何でしょうね。初回作品からは読み取れませんでした。次作以降に期待です。

 

 それでは、いつものようにA群は好みの作品群です。B群も嫌いではありません。C群はどちらかというと好みから外れた作品です。

 

A群

1位 「イノセント・デイズ」 早見和真

2位 「暗幕のゲルニカ」 原田マハ

3位 「冬を待つ城」 安部龍太郎

4位 「鬼神の如く 黒田叛臣伝」 葉室麟(新連載)

5位 「転がらない球Ⅵ 名前のない古道具屋の夜」 柴田よしき

5位 「波止場にて」 野中柊

5位 「水曜日の凱歌」 乃南アサ

5位 「ゆらやみ」 あさのあつこ

5位 「アシタ・デキル?」 山本幸久

 

B群

10位 「金魚鉢の夏」 樋口有介

11位 「死んでたまるか」 伊東潤

12位 「私家本 椿説弓張月」 平岩弓枝

13位 「栄吉の来年 しゃばけ」 畠中恵(新連載)

14位 「星夜航行」 飯嶋和一

15位 「たずたずし 絵のない肖像1」 阿刀田高(新連載)

 

C群

16位 「トワイライト・シャッフル テン・ストーリーズ」 乙川優三郎