わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

小説新潮2013年11月号特集「ザ・プロフェッショナル―仕事人、仕事を語る」

 今月号の特集は、「ザ・プロフェッショナル―仕事人、仕事を語る」というテーマです。私が本誌を再読するようになってから職業に焦点を当てた特集にお目にかかるのは初めてです。特集作品は、それぞれの業界で著作を著している人に依頼したようです。作者と新潮社でどのような契約になっているかは知る由もありませんが、それぞれの作者は本業が小説家ではありませんので、作品を刊行するには編集者が関与した部分も多々あったと思います。このことを前提に作品を拝読させていただきました。

 今回の特集は知らない業界を知る楽しみがある一方で、業界人が執筆すると業界外の人間にはわからない用語や概念が頻出し、ストーリーが理解しにくい弱点があると思いました。ただ、こうした部分は編集者の補正力次第で作品の質は大きく向上するものだと思います。

 以下、業界のことが多少なりとも理解でき、かつ小説として共感できた順にランキングしてみます。

1位 「砂の魔術師」 前田建設 ファンタジー営業部

2位 「エース・ハンター」 櫻井八重

3位 「たいようの招待状」 大和田浩子

4位 「最後の共犯者」 長崎尚志

5位 「魂の刻印」 稲船敬二

6位 「数字は踊る」 山本一郎

7位 「マーロン・ブランドは笑わない」 須藤晃

「砂の魔術師」 前田建設 ファンタジー営業部

 この作品は、指に鋭敏な感覚をもつ土木技術者が効率よく土中をすすむシールドマシンを制御していく過程と「近隣満足」を経営方針にしている建設会社の出先の事業所が地域の商店街の活性化に貢献していく過程をさわやかに描いています。土木工学に関する記述は専門外で分かりにくい部分もありましたが、SF小説として充分楽しめました。小説としての構成力や展開の質はかなり高いと思いました。一点、違和感を覚えたのは、社員を「職員」と表記していることです。民間企業で社員を職員と呼ぶ習わしの会社はかなり少数だと思うのですがいかがでしょうか。

「エース・ハンター」 櫻井八重

 この作品は、ヘッドハンティングを業とする女性ヘッドハンターの物語です。印象に残った記述に触れます。人がヘッドハンティングに応じるときのポイントは3つあるとしています。「1つは報酬、2つは地位、最後が充実感」だそうです。充実感とは成長感や貢献感のことで、仕事をとおして得たい、もしくは実現したいものとしています。若いうちは成長感を、年を取ると貢献感を強く求める傾向があるとのことです。ヘッドハンティング業界の法則のようですが、共感できました。

「たいようの招待状」 大和田浩子

 この作品は、ビジネスホテルで結婚披露宴を行うことを考案し、ウエディングプランナーとしてはじめて結婚披露宴をプロデュースした女性の物語です。小説の展開でははじめて結婚披露宴をプロデュースし奮闘したストーリーのあとにいくつかの事例が紹介されていましたが、この部分はウエディングプランナーのお仕事紹介記事のようで、構成要素としては不要のように思いました。それでも純粋に結婚に至るストーリーには涙腺は決壊してしまいました。人が幸せになる話は素直に良いものです。

 そのほかの作品では、「最後の共犯者」(長崎尚志)は漫画雑誌編集者、「魂の刻印」(稲船敬二)はゲームプランナー、「数字は踊る」(山本一郎)は投資コンサルタント、「マーロン・ブランドは笑わない」(須藤晃)は音楽プロデューサーを扱った作品です。「最後の共犯者」までは小説として理解できましたが、それ以外はそもそも職種そのものがあまり理解できなかったこともあり、小説としての感興はわきませんでした。