わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

早見和真「イノセント・デイズ」(第8回)小説新潮2013年11月号

 今月も「イノセント・デイズ」に触れないわけにはいきません。今月号(第5章)は、24歳の誕生日から4日過ぎた事件当日の朝の描写から始まります。幸乃は2年前に敬介に捨てられてから、再び神経科に通院するようになり抗不安定剤を服用しています。とくにこの数週間は不安定がひどく、この日は抗不安定剤デパスとSSRIの同時服用で意識が朦朧としています。夢と現実の境界が常に曖昧で、何をするにも気怠さが付きまとっています。精神が相当に不安定な状態にあることが具体的に描かれています。

 物語は、敬介に捨てられた2年前に戻ります。幸乃は敬介への思いが絶ち切れずストーカーをするようになります。幸乃はストーカーが悪い行為であることは十分に分かっていて、何度もストーカーを止めようと決心しますが、激しい衝動に胸を掻きむしられます。自分を抑えるための苦悩は相当に過酷です。この第5章はストーカーの心理が克明に描かれています。

 私はこれまでストーカーの心理に思いを寄せたことがありませんでしたので、ストーカーの苦悩に寄り添う新たな価値観を発見した思いです。

 さて、物語はどんでもない結末を迎えます。事件の当日、幸乃は敬介一家のアパートに向かいますが、何とか前向きな気持ちになれ、自分のマンションに戻ります。その後、デパスを服用し深い眠りに就いて、「第1部 事件前夜」が「完」となります。事件は幸乃が眠りに就いてから起こっていたのです。

 私は、この結末に何ともいえない哀しみに陥ってしまいました。私は、前回、当ブログで幸乃がなぜストーカー放火殺人を犯したのか理解に苦しむ旨の感想を述べましたが、やはり幸乃は犯人ではなかったのですね。ますます展開が読めなくなりました。今月号は、「第5章 その計画性と深い殺意を考えれば―」となっています。何とも皮肉な章タイトルです。

 この作品は当分、目が離せません。