わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

今野敏「人事 隠蔽捜査外伝」小説新潮2013年7月号

 今回は、警視庁第2方面本部に新たな本部長が人事異動で赴任してきました。弓削篤郎(ゆげあつろう)56歳。ノンキャリア警視正です。ただし、今回の主人公は野間崎政嗣(のまざきまさつぐ)管理官です。このシリーズを愛読している人はご存じのことと思いますが、野間崎管理官は51歳のノンキャリアの警視です。シリーズ全体の主人公・竜崎伸也(りゅうざきしんや)大森署長を指導する立場にありながら、竜崎に理屈で敵(かな)わないため、竜崎を快く思っていません。竜崎は身内の不祥事により降格されて大森署にいますが、キャリアの警視長で野間崎より2階級上位の職にあります。時には警察秩序を無視してまでも合理性を最優先するタイプなので、変人扱いされていますが、難事件を的確な指示で解決に導いていきますので、野間崎は全く歯が立ちません。

 

 今回は、野間崎が新任方面本部長の弓削からヒアリングを受ける場面から始まります。弓削のヒアリングに対して野間崎は竜崎署長を問題署長として報告しますが、一方で小学生が告げ口をしているようで自己嫌悪にもなります。また、竜崎の説明をしていると竜崎を褒めている気がしてきて妙な気分にもなります。この心理描写はコミカルで笑えます。

 

 竜崎に関心をもった弓削は竜崎に会いたいと野間崎に伝えます。さっそく大森署に電話をしますが、竜崎からは「無理です。」と拒否されてしまいます。野間崎は本部長の要求を拒否する竜崎が信じられません。理由は大森署管内で強盗傷害事件が発生し緊急配備の指令が出たところなので、一応納得する野間崎ですが、その旨を弓削に報告すると弓削は直接、大森署に行くと言います。野間崎も同行しますが、竜崎は犯行現場にいちばん近い交番に出向いており留守でした。弓削は憤慨しますが、ここで竜崎を待つ間の野間崎の気苦労がコミカルです。またまた笑えます。

 

 いよいよ野間崎の板挟みも限界になり、貝沼副署長経由で竜崎の携帯電話に連絡すると、「すぐ戻る」との返事に呆けてしまいます。15分後に戻った竜崎に、野間崎はなぜ今度は戻ったのか理由が知りたいと伝えます。本部長が大森署に足を運んだからか慌てて戻ったのではないだろうかと質問したのですが、竜崎には怪訝な顔をされてしまいます。その時、弓削から「人事を尽くしたからだ。そうだろう、署長」と指摘されてしまいます。同時に「被疑者4名確保」の連絡が入り、一件落着です。竜崎は「何か、お話があったのではないですか?」と尋ねますが、弓削は「もう充分だ。」と言って機嫌よく帰っていきました。野間崎は方面本部長と所轄の署長がツーカーとなったら立場がないなとトホホの気分で上司の後をついて大森署を出るのでした。

 

 作者はこの短編を余裕で書いているように思われます。こんなに笑えるシリーズは初めてです。作者もきっと楽しんで書いているのでしょうね。ありがとうございました。