わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

高橋克彦「約束」小説新潮2013年2月号

 今月号で一番好いと感じた作品は、「約束」(高橋克彦)です。作品としてはかなりの短編ですが、程よくストーリーが凝縮されており好作品だったと思います。 

 作品は、ヌード写真で名を馳せた写真家の「私」が、ある時、美術番組の収録で川上という若手小説家と対談するところから始まります。収録中に川上は写真は事実の切り取りに過ぎず、音楽や文芸、絵画のように無いものから表現し感動を紡ぎだすものではないので芸術とはいえないと言い切ります。私は川上に苛立ちを感じながら番組の収録を終えます。番組収録後、川上は失礼を詫びながら川上雪子の息子であることを伝えます。雪子は美大時代に同棲していた女性でした。 

 私はこれまでの写真家としての名声にもかかわらず、川上の指摘が心から離れなくなり、自分の写真にどれだけの意味があるのか苦悩していきます。私は苦悩の中で30年前に撮った雪子のヌード写真を見つけ出します。この写真は雪子に懇願して撮ったヌード写真でした。この写真の中に雪子の心の炎が噴き出していることを発見し、写真とは何かの光明が見え始めます。読者には写真の芸術性についての程よい解説にもなっています。また、学生時代からアイドルのヌード写真を商業主義的に量産し富と名声を博し、当時、自分を見失っていたことが雪子が離れていった理由であることをこの雪子のヌード写真を見て思い至ります。この雪子の写真は事実の切り取りではなく、雪子の心を切り取っていると理解したのだと思います。 

 エンディングは、すい臓がんで亡くなった雪子の亡骸のある病室での場面です。雪子は亡くなる直前に、息子に雪子と私との約束を伝えていたようです。それは、「私が先に死んだら雪子が私の死に顔を絵にして残す。雪子が先に死んだら私が雪子の死に顔を撮影する。」というものでした。これは私からのプロポーズの言葉でもありました。雪子は私と別れた後も誰とも結婚することもなく川上を育てていました。私と川上は病室で親子であることを無言で共有します。私は、ファインダーに写る雪子がどんどん若くなっていき当時の楽しい光景がよみがえります。雪子が「一緒だったのよ、本当は」と言って、私の背中を優しくさする温かな手触りを確かに感じ、物語を終えます。 

 

 その他の作品では、「続・寺内貫太郎一家」(烏兎沼佳代)が次第に私好みの作品になってきています。連載当初は、貫太郎のドタバタとした暴力描写が時代錯誤の感があり好きになれませんでしたが、最近の号では、故向田邦子さんの原作をたぶん現代の感性にアレンジしているのだろうと想像しています。

 

 「べんけい飛脚」(山本一力)は、いつも最後尾に収録されているせいか、目立たない印象がありますが、静かに読みすすめられる楽しみがあります。

 

 「抱く女」(桐野夏生)は、昭和50年代の吉祥寺界隈(東京)のマージャン荘やジャズ喫茶にたむろしている大学生を描いています。私の大学生時代と重なり、なつかしい気分になりますが、いきなり共感できるほどではありません。まだ連載2回目で今後どのような展開になるのかわかりませんので、好みの判断を保留しているところです。

 

 「傲慢な婚活」(嶽本野ばら)は、主人公の破天荒で傲慢な性格には共感できませんが、いろいろな生き方の断面を小説をとおして見る楽しみもあります。こちらも連載2回目で今後どのような展開になるのかわかりませんので、好みの判断は保留です。

 

 さいごに、3か月ぶりに連載作品について好みをランキングしてみます。いつものようにA群は好みの作品群です。B群も嫌いではありません。C群は好みから外れた作品です。 

 なお、今月号は推理小説特集で8作が収録されていましたが、魅かれた作品には出会えませんでした。収録作品はいずれもあまりにも短編でした。推理小説は短編すぎるとストーリーに幅が出難いようです。ランキングからも外しています。

 

A群

1位 「約束」 高橋克彦

2位 「獅子の城塞」 佐々木譲

3位 「波止場にて」 野中柊

4位 「宰領 隠蔽捜査5」 今野敏(最終回)

5位 「底のないポケットⅧ 名前のない古道具屋の夜」 柴田よしき

6位 「私家本 椿説弓張月」 平岩弓枝

7位 「ここからはじまる」 はらだみずき

8位 「月光の誘惑」 赤川次郎

9位 「続・寺内貫太郎一家」 烏兎沼佳代

10位 「べんけい飛脚」 山本一力

 

B群

11位 「ヒトでなし」 京極夏彦

12位 「マテリアル・ライフ」 仙川環

13位 「おついたち」 宮下奈都

14位 「こいさがし しゃばけシリーズ」 畠中恵

15位 「メイのいない5月」 杉山隆男

 

C群

16位 「星夜航行」 飯嶋和一

17位 「島津戦記」 新城カズマ

18位 「抱く女」 桐野夏生

19位 「傲慢な婚活」 嶽本野ばら