わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

荻原浩「冷蔵庫を抱きしめて」小説新潮2013年1月号

 新年あけましておめでとうございます。訪問してくださる皆さん、いつもありがとうございます。今年も不定期になると思いますが、印象に残った作品の感想を時々書き込みたいと思います。本年もよろしくお願いいたします。

 

 それでは、「特集作品から(その1)」に続き、(その2)をアップします。

 

「冷蔵庫を抱きしめて」 荻原浩

 物語は新婚旅行帰りの成田空港の手荷物受取所の場面から始まりました。直子と越朗はアメリカ西海岸への新婚旅行中の食事の話題でワイワイガヤガヤしながら家路に着きます。2人とも何から何まで相性ピッタリです。この作品の書き出しはとにかくラブラブです。

 

 しかし、新婚旅行から帰っていよいよ新婚生活1日目の朝を迎え、直子は張り切って朝食をつくりますが、越朗とは好みが違うことが露見します。越朗の朝食はパン中心。直子が一生懸命に作った料理は和食。その後、和食にしても洋食にしても好みが悉く違うことが判明してきます。次第に直子と越朗の間に隙間風が吹いてきます。共働きなのに越朗は料理はできない宣言です。これも直子には予想外でした。

 

 直子は次第にストレスから拒食症になってしまいます。またその反動で過食症にもなります。次から次へと食料を買い込み、次から次へと食べ続ける直子。奥歯の裏側をこすると簡単に吐けることを知っている直子。半分だけ胃に残して吐くこともできる直子です。食べては吐く繰り返しの描写はリアルです。だんだん話題は暗くなります。この先、直子と越朗はどうなるのだろうと心配になりながら読んでいきます。

 

 実は、直子は中学3年生のときに摂食障害を経験していました。物語は中3のときの摂食障害の描写を挿入しています。教頭先生だった厳格な父親と家で見る食べ方の汚い父親への嫌悪感などから摂食障害となったことを描写しています。ますます重い雰囲気の展開です。

 

 その後、物語は父親の三回忌の法事の場面に移ります。ここで直子は摂食障害による吐き気に見舞われます。トイレに駆け込みますが、嘔吐物でトイレの床を汚してしまいます。そこに越朗が現れます。直子は「酷い臭いを越朗に嗅がれたかと思うと、体を消し去りたくなった。」と消沈します。しかし越朗は意に介さず二人で懸命に床をふき取りました。法事ではつわりと勘違いされたままの散会です。

 

 結びでは、しかたなく行った産婦人科医で当然のように陰性の判定をもらい家に戻ると、越朗が慣れない手つきで料理をしていました。越朗は法事の時に義姉から直子が摂食障害があったことを聞かされていました。また、そのこと以前から、冷蔵庫の食料の多さにも気がついていましたので、直子が秘密にしていた摂食障害を越朗はまるごと受け止めていたのです。トイレ嘔吐事件が契機になり、直子と越朗の本当の家庭作りが始まろうとしているところで物語は終わります。

 

 この作品は起承転結がはっきりした展開で安定感がありました。また、出だしはとにかく明るく、しかし次第に暗くなり、しまいには真っ暗になり、また、明るくなるというコントラストのはっきりした文章は、まるで調光器のついたライトのようでした。文章で明るさから暗さまで自在に操れる表現力はさすがにプロです。ハッピーエンドも読者の期待を裏切らない温かさを感じました。

 

 最後に一言。気張って付き合っているうちは婚約中といえども恋愛ゲームでしょう。そこを乗り越え、裏も表も理解し合えたところで本当の愛ですかね、確か。