わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

梶尾真治「奈津美と重力波」小説新潮2012年11月号

 この作品が今月号の特集作品の中で最もSF的な興奮を掻き立てる作品でした。主人公は営業職の安本卓志。30歳前の独身です。物語は付き合いで参加した合コンで偶然、城石奈津美と知り合うところからスタートします。二人は、合コンの後にそれぞれが帰宅してテレビのニュースでラグーサグラードという東欧の国の内戦のニュースを見ていました。その後、思いもかけず交際に発展していきますが、デート中にはなぜかラグーサグラードの話題が多くなります。 

 あるとき、高校時代の同級生の平田に会います。平田は天文台に勤務しています。その後、平田から驚くべき仮説を伝えられます。平田は百十光年先の天体から異常な重力波が出ていることを観測します。その波動の強弱がラグーサグラードの内戦とリンクしているというのです。また、安本たちの交際も波動が強いときは交際は順調に進み、波動が弱まっていた時期は交際も停滞していた時期と全く重なるといいます。 

 その後、交際はさらに発展し婚約します。婚約したその日に重力波を発していた星が超新星化したと平田から電話がありました。翌日、ラグーサグラードが核爆弾を使ってしまいました。安本はこの因果関係が逆で、自分たちが原因で1つの国が壊れ、時を遡って110年前に星を消滅させてしまったのではないかとの感覚に襲われます。もし、奈津美の中に新しい生命が宿ったときは世界や宇宙はどうなるのだろうかと慄然として物語は終わります。 

 この作品は遥か彼方の星の重力波が地球上の営みに何らかの影響を及ぼしているという着想です。月の引力が潮の干満に影響しているという科学的知見に思いを巡らせれば、燃える恋と同時に進行する異国の内戦が実は重力波が影響しているという因果関係は有り得るかも知れないとイメージが膨らみます。こういう着想はSF小説の醍醐味ですね。 

 因みに、ラグーサグラードという国は、中世の東欧にあったラグーサ共和国とセルビア共和国の首都のベオグラードを掛け合わせて創作した国でしょう。実在はしていません。