わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

初野晴「浜辺で歌うスース」小説新潮2012年11月号

 物語は、ステルラの臨終の場面からスタートします。ステルラは移民なのか異星人なのか、読者はステルラの正体がわからないまま、わかることは町民から愛された1つの命が今まさに消えようとしているということだけで読み始めていきます。 

 話は6年前のモザンビーク共和国に移ります。日本人テレビクルーは先進国の食糧戦略のドキュメンタリー番組をつくるためにモザンビークに取材に訪れます。そこで巨大な養牛、養豚、養羊、養鶏の飼育場を視察します。その時に1発の銃声が聞こえます。それは、知能が発達し、カギを開けられるようになった豚を射殺した音でした。突然変異でまれにこのように知能の発達した豚が生まれるとのことです。このような豚は養豚場経営にとっては害悪ですので駆除するしかないのです。 

 ステルラは今際(いまわ)にあたり1人の日本人と病床で再会します。この日本人は、自分を理解してくれた最初の人間でした。ステルラは余命幾ばくもないときにこの日本人に手紙を出していました。この日本人の口から初めてステルラの過去と正体が明らかになります。 

 ステルラは突然変異で高度に知能が発達し、人間の言葉も理解できるようになった豚でした。ステルラは自由を求めて養豚場からの脱出に成功したのです。逃走の途中でステルラの存在を理解できる日本人テレビクルーの1人に助けられ、カナダ行きの貨物船に紛れ込み“亡命”したのでした。 

 その後は、町民が知るように、カナダの海岸で瀕死の状態になっているところを助けられました。ステルラは町の老経済学者から様々なことを学び、自由と学問を得ました。その後、自分を受け入れてくれた町民への感謝を込めて株取引で得た利益で町に学校や診療所などを寄付し、町民に愛され今、生涯を閉じようとしています。 

 ステルラの波乱に満ちた生涯は、まさにSFの世界なのですが、不思議としっとりとした安らぎ感のある好作品です。 

 余談ですが、子豚が牧羊豚になる「ベイブ」という映画をふと思い出しました。