わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

石野晶「スノーボール」小説新潮2012年9月号

 2012年9月号はファンタジー小説の特集でした。私はファンタジー小説というものが今一つよくわかりません。夢見る乙女の清らかな夢想から奇怪で恐ろしい幻想まで範囲が広いですね。

 

 色でいえばピンクから紫や黒の世界までという感覚です。時間や空間を平気で飛び越え、時には常識も飛び越えてしまっている作品も数多くあります。それでも、これらを飛び越えても読者をうならせるような構成と結末と想像可能な根拠があれば作品としての価値が異常に輝くのがファンタジー小説の特徴だと思っています。

 

 さて、感性と想像力の貧困を感じながら、気になった特集作品について何回かに分けて感想を留めておきます。

 

「スノーボール」 石野晶

 物語は、無人となった英輔の家を訪れ、32歳になった雪乃がスノーボールの白い花びらを小学生の男の子にふりかけたところからはじまります。雪乃は叔父・英輔に初めて会った時に同じことをされたことをいたずら心で男の子にしてみました。男の子の黒い瞳に自分が映った瞬間に7歳の時の同じ場面の記憶の世界に入っていきます。

 

 7歳の雪乃は新しい父親には懐(なつ)きませんが叔父英輔には懐き、毎日のように英輔の家に行くようになります。そこだけが唯一寂しさを紛らわせることのできる場所でした。

 

 しかし、中学生の時には両親が離婚し、英輔との交流継続が困難になっていきます。それでも英輔を唯一の心の拠り所にしている雪乃は英輔の家に行き続けます。雪乃に対する周囲の奇異の視線描写は哀しいです。

 

 その後雪乃が18歳の時に英輔が死亡し、20歳になるまで毎年誕生日にプレゼントするという約束が途絶えてしまいます。7歳の時に初めてもらったプレゼントは雪乃の希望により手製のドールハウスでした。その後はドールハウスの中に入れるミニチュア家具が毎年プレゼントされました。

 

 ファンタジー小説の真骨頂はここからです。話は現在に戻ります。雪乃が今いる英輔の家の前に10歳の英輔が坂を上って雪乃のもとにやってきました。雪乃と英輔の年齢関係が初対面の時とは逆になって14年ぶりに再会したのです。常識ではあり得ませんので、読者は雪乃の想念が続いていると場面設定しないとデタラメな小説となってしまいます。

 

 小学生の英輔は雪乃に渡せなかった2つのプレゼントを渡します。1つは開けることのできなかったミニチュア家具のための取っ手です。そして最後のプレゼントは、引き出しの中から出てきた結婚指輪でした。

 

 英輔に会えるのは年に1日英輔の命日の日だけです。この小学生はこの日だけ記憶が戻り英輔となれるのです。いつか完全に記憶が戻るかもしれないので大人になるまで待っていてほしいと雪乃に言います。スノーボールの花言葉は「私は誓います」です。

 

 私は、スノーボールの花びらをいたずら心で小学生にふりかけた場面から、その小学生に英輔を投影し、英輔を想念の中で蘇らせていると読みました。さて、みなさんはこの作品をどのように理解したでしょうか。

 

 それにしても、石野さんの描く少女像はやさしく、温かく、そして哀しいですね。こういう文章とまなざしが好きです。