わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

恒川光太郎「スノー・ゴースト」小説新潮2012年8月号

 この作品は、今回の特集作品でもっとも魅かれる作品でした。主人公は松田孝之。中2の時に自分たちで作った氷の宮殿で、一度は好意を寄せた同級生の児玉マリナにほとんど衝動的に殺されてしまいます。その後、松田は冬に限って短期間、復活することができるようになります。次第にどのような時に復活し、消えるのかコツを身につけるようになります。 

 5年後に復活した時に松田に彼女ができます。彼女の名前は李乃。消滅したときに身に着けていたものは次の冬に復活するときには一緒に現れることがわかり、松田と李乃はすでに3回跳躍しています。4回目の跳躍の時に李乃は一生松田についていくことを決心します。しかし、松田は李乃を連れて行きませんでした。松田の決断はあまりにも悲しく感情移入してしまいました。 

 その後、父が死に、母が死に、歳月は40年が立ちます。しかし、松田は38か月しか歳をとっていませんから高校生ぐらいです。ある時、太った中年女と出会います。女は松田を見て目を見開き、目を瞑り手を合せます。松田は女の肩を叩きますが女は顔をあげません。死んだと聞かされていた児玉マリナを暗示させています。その年に松田は飲み屋で出会った友人30人とで過去最大の氷の宮殿を作ります。完成した宮殿で一人になった松田はどこまでも続く氷の通路で迷いますが、不思議と心は落ち着きどんどん透き通っていきます。 

 児玉マリナが罪を認め懺悔すれば、このまま心とともに肉体も透き通って復活しないような暗示もありますが、あるいはこの先何百年も冬に復活を繰り返す可能性までは否定していません。そこは読者の想像に委ねています。短編にも関わらず40年間の長いスパンを取り扱い、それでいて散漫にならない密度とスケール感が良いです。