わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

辻井南青紀「消えた花嫁 結婚奉行手控え帖」小説新潮2012年7月号

 2012年7月号は710ページありました。私が本誌を2年半前に約30年ぶりに再読するようになってから最もページ数の多い号となりました。編集者の気合いが感じられ大いに結構です。 

 そこで、今回は特集作品を含めて全作品をあえて好み順にランキングしてみます。いつものようにA群はかなり好みの作品群です。B群も嫌いではありません。C群は好みから外れる作品群です。ただ、C群は私が個人的に好みではないとしているだけで、総合小説雑誌ですので好みの有無にかかわらずバランスよく多くのジャンルの作品を読んでみたいと思っています。今後とも多様な作品の収録を期待しています。

 

 はじめに特集作品についての感想です。

 今月号の特集は「納涼 夏の時代小説」と題し、定評のある連作が収録されていました。特に「紅唐桟(べにとうざん) 古手屋喜十為事(しごと)覚え」(宇江佐真理)、「七夕の人 お鳥見女房」(諸田玲子)、「葭切(よしきり)」(藤原緋沙子)は徹底的な人情ものです。人が幸せになる結末のものは読んでいる者も幸せな気持ちになり心が豊かになります。

 

 「老人と罪」(矢野隆)も連作です。今回はドブ板長屋に住む元盗賊の老人・藤兵衛が追手につかまり凄惨なリンチを受けます。描写している行為は凄惨ですが、不思議に血生臭さがありません。凄惨な場面を執拗にえぐるように書かない手法がこのような効果を生んでいるものと思います。迫力不足と感じる読者もいると思いますが、私はこのような表現処理の方が好みです。

 

 「消えた花嫁 結婚奉行手控え帖」(辻井南青紀)は面白い設定です。時は老中松平定信の文化文政の天下泰平の世、桜井新十郎は火付盗賊改の同心ですが、幕政改革の一環で、養子縁組や持参金の廃止の指導、妻と死別した旗本を縁組させる奉行に配置換えになります。捜査一課の刑事が結婚相談所の相談員になるような人事異動です。女心をまるで理解しない荒くれ刑事が女心を理解しようと苦心するような微笑ましい展開です。新十郎の奥方「きく」の出番もありそうです。何となく今後、連作に発展していただけることを期待してしまいます。

 

 次に、連載作品について気になった作品の感想です。

 「風屋敷の告白 還暦探偵」(藤田宣永)は回を重ねるごとに登場人物の相関関係が分からなくなります。月刊誌での連載作品ですと、特に血族や姻族が多く登場する作品は名前が似ていることが多いので、1か月のブランクの間に関係性が見えにくくなります。「お鳥見女房」(諸田玲子)のシリーズのように登場人物の関係図をつけていただけると登場人物の関係性が見えやすくなります。編集ご担当者様の方でぜひご検討をお願いします。

 

 「魔術師の視線」(本多孝好)は初期のころは「礼(れい)」のトリックが暴かれて家庭崩壊になるなど、展開がスリリングで注目していましたが、中盤は「ミチル」が殺人容疑をかけられそうになり逃避行となりました。逃避行中の展開は登場人物の関係性がよく読めず、かつ「礼」の登場場面も少なく展開がダレていたようです。やっと今月号でダレた展開の背景が明らかになり今後に巻き返しを期待していたところ最終回だったという話でした。「礼」が超能力で父親を殺した理由が説明不足で消化不良です。最初のころ期待していた分、期待を裏切られた作品となってしまいました。

 

 「宰領 隠蔽捜査5」(今野敏)はいよいよエンジンが温まってきたというところでしょうか。竜崎は神奈川県警横須賀署におかれた前線本部の副本部長として横須賀署に出張します。地元横須賀署の板橋捜査一課長は「警視庁の事案にどうしてそこまでする必要があるのか」と予想どおり反発してきました。今後、どのように板橋捜査一課長をコントロールするのか手腕に注目です。

 

A群

1位 「沈黙の代償」 真山仁

2位 「Hidden times」 坂東眞砂子

3位 「キアズマ」 近藤史恵

4位 「獅子の城塞」 佐々木譲

5位 「波止場にて」 野中柊

6位  「宰領 隠蔽捜査5」 今野敏

7位 「紅唐桟 古手屋喜十為事覚え」 宇江佐真理

8位 「七夕の人 お鳥見女房」 諸田玲子

9位 「スカイツリーの女」奥田英朗

10位 「ドンナ ビアンカ誉田哲也

11位 「リカーシブル」 米澤穂信

12位 「海峡の絆」 熊谷達也

13位 「葭切」 藤原緋沙子

14位 「消えた花嫁 結婚奉行手控え帖」 辻井南青紀

 

B群

15位 「十津川警部 新宮に徐福伝説の謎を追う」 西村京太郎

16位 「月光の誘惑」 赤川次郎

17位 「ヒトでなし」 京極夏彦

18位 「魔術師の視線」 本多孝好

19位 「カメレオンの地色」 荻原浩

20位 「神様が降りてくる」 白川道

21位 「底のないポケットⅠ 名前のない古道具屋の夜」 柴田よしき(新連載)

22位 「春風伝―高杉晋作萩花の詩」 葉室麒

23位 「風屋敷の告白・還暦探偵」 藤田宜永

24位 「サンカーラ―この世の断片をたぐり寄せて」 田口ランディ(最終回)

25位 「よるのふくらみ」 窪美澄

26位 「今は寂しい道」 朱川湊人

27位 「思い違い」 恩田陸

28位 「島津戦記」 新城カズマ

29位 「やけど」 千早茜

30位 「脊梁山脈」 乙川優三郎

31位 「老人と罪」 矢野隆

32位 「べんけい飛脚」 山本一力

33位 「星夜航行」 飯嶋和一

34位 「続・寺内貫太郎一家」 烏兎沼佳代

 

C群

35位 「いわゆるゾンビですけど、なにか?」 宇月原清明

36位 「ほろびぬ姫」 井上荒野