わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

窪美澄「よるのふくらみ」小説新潮2012年7月号

 この作品は2011年6月号に掲載された「星影さやかな」の続編です。約1年ぶりの続編発表となりました。 

 私は2011年5月の当ブログで「みひろ」を主人公とするこの連作の作風に一体感がないことと、シリーズ第1作目の「なすすべもない」(2010年6月号)でみひろが排卵期になると情欲しコントロールが利かなくなる性癖を以降の作品でどのように収束させるのか期待している旨の書き込みをしました。今回の作品では、排卵期に「ここあちゃん」のお父さんに情欲しそうになり、結局、それを諌めた婚約者の弟(裕太)相手にまた昇華してしまったような暗示があります。連作の中で異質だった性癖の扱いを今回の作品の中で真正面からとらえ直し一体化させています。これはあっぱれというほかはありません。 

 これまでこの連作は官能小説だったり、恋愛小説だったり学園小説だったりと特集の編集方針に左右されたためか、一体感が失われていましたが、「性」を織り交ぜることで作風に一体感が生まれるシリーズとなりそうです。今回の路線の方が窪氏の筆もいきいきしているように感じます。 

 ところで、今回の題名は何なんでしょう。就寝中の「圭ちゃんの足の間にあるものにそっと触れる。温かくて、ふわふわしたやわらかいものが、そこにある。なかなか形を変えてくれない、やわらかいかたまりが。」の部分から読者がイメージを膨らませるよう仕掛けた題名ということでしょうか。 

 因みに同様の描写では、(最近読んだ)村上春樹の描写では「彼女は柔らかくなったままの天吾のペニスを手のひらに載せ、その重さを慎重にはかった。」(「1Q84」BOOK1後編 第24章 新潮文庫版P355)となります。村上描写の何と繊細なことか!(下半身ネタで恐縮です。) 

 さて、みひろの置かれた状況は先々問題山積です。婚約者圭ちゃんは不妊体質。圭ちゃんとの生殖のためだけのセックスへの不満、不倫駆け落ち歴があり粗野な母親への毛嫌いとそのDNAを受け継ぐみひろの自己嫌悪、裕太との不義。婚約解消必至の様相です。圭ちゃんをいい人に描くことで、みひろとの対比を鮮明にしています。 

 裕太の先々も怪しい雲行きです。結婚前提の子連れの里沙の風評がよろしくありません。里沙と元夫(小児科医)との本当の関係もまだ明らかになっていません。また、連れ子「リョウ君」の虐待の跡らしき記述や里沙へのDVの跡らしき記述(「平熱セ氏三十六度二分」(2011年2月号))との関係もこれから明らかになるのだと思います。