わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

田口ランディ「サンカーラ―この世の断片をたぐり寄せて 沈黙」(第4回)小説新潮2012年3月号

 田口は原子力政策や被爆の問題を長年追っています。この作品は東日本大震災以降に直面している田口の生き方を省察的にとらえています。今回はイタリア人ジャーナリスト、ピオ・デミリオとイタリアに講演旅行に行ったことが舞台となっています。ピオは日本に10年以上滞在していて外国人記者の間ではかなりの有名人のようです。講演旅行の過程で、ピオの圧倒的な行動力の前に自分が次第に内向的になっていくことと、コンビニがなくても、電気が暗くても不便と感じないイタリア人の生活を見て、疲弊している日本人の生活に痛みを感じてしまう自分を描いています。 

 田口はイタリア人がどうでもいい会話を楽しんでいる光景に、以前、重度の認知症グループホームを住み込み取材したときのことを思い出したとしています。5分前の会話を記憶できない患者さん(われわれの感覚では「利用者」)が目的意識や意味のない会話でも、会話することで気持ちが和み、自分が誰かわからなくても自分がここに存在することを確認でき、他者から承認されること、それが社交であることを認知症の老人から学んだとしています。 

 定年を間近に控え、自分の人生ってなんだろうと考えることが多くなりました。人生とは、自分にとって価値のあること見つけ出し、自分の気持ちに誠実にその価値を積み上げていく毎日の過ごし方のように思います。そのときに「どうでもいいような会話」が人生を豊かにするという示唆を得た思いです。自分の周りにいる人をかけがえのない人と大切にして「会話」することが人生を豊かにすると言っているように思いました。