わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

大崎梢「青い星の夜 ふたつめの庭」( 第5話)小説新潮2012年2月号

 この連作がはじめに登場したのは2010年10月号です。第1話は「絵本の時間」でした。保育園の保育士が主人公の小説はめずらしいのと、父子家庭の問題を保育士の視点で扱っている着眼点に魅かれて注目していました。 

 今回の第5話は第1話で登場した父子家庭の父親・志賀隆平の過去と重なり合うテーマで第1話の続編のような作品です。子どもに寄り添う視線が暖かく、保育園ものというめずらしさがありますので、記録に留めておこうと思います。 

 主人公は小川美南(みなみ)24歳。保育園勤務の保育士です。準主役的な登場人物は、美南の勤める保育園の保護者の志賀隆平とその一人息子・旬太です。隆平は、いわゆる一流大学を出て一流企業に勤めて、自他ともに認める仕事のできる一流ビジネスマンで、イケメンで、職場一の美人と結婚し、子宝にも恵まれたというほとんどパーフェクトな設定です。 

 しかし、生硬で面白みがないという理由で妻は浮気をして離婚しています。妻に逃げられこれまでの自分を顧み、自分を変えたくてエリート街道からは離脱して、旬太の親権は隆平が持ち、旬太との父子家庭で生きています。隆平自身が人間性の回復途上という設定です。 

 第5話は、高3で妊娠し卒業したその年に出産し、一人娘・ひかりを保育園に預けながら生活しているシングルマザー・佐野奈保子(23歳)をめぐる物語です。 

 物語は、ひかりが保育園に奈保子の大切な指輪を持ってきてなくしてしまい、それを探すことを軸にして描かれています。 

 奈保子がシングルマザーになった経緯がリアルに描かれています。ひかりの父親は奈保子の同級生です。ラブラブカップルで子どもを設けたのに「同級生の彼」は親の猛烈な反対にあい、次第に心変わりし子どもの認知も入籍もなく在学中に留学してしまいます。奈保子は放心し、実家を逃げるようにアパートに引っ越し母子手当(「児童扶養手当」のことだと思います。)で生活し、ひかりが2歳になったときに保育園にひかりを預けスーパーで働くようになります。奈保子の通っていた高校は進学校という設定です。 

 隆平は、ひかりの父親である同級生の彼が認知や入籍から逃げて、大学生活を送り、そのまま就職し、いつか結婚するであろう人生を以前の自分に重ね合わせます。自分も旬太を引き取らなかったらひかりの父親と同じだったという思いが隆平を指輪探しに駆り立てています。 

 また、ひかりが保育園に指輪をもってきた心情表現は子どもの気持ちにそった女性作家ならでは細やかさがあります。保育園で結婚ごっこが流行っていて、父親を知らないひかりが母親が近く結婚する証拠の誕生石のついた指輪を持ち出し園児に見せる心情や、園内を手分けして探している先生(保育士)たちを見るにつけ、園児の感覚では遠いところであるお散歩コースの公園でなくしてしまったことが言えなくなってしまった心情は、子どもへの繊細な心象分析があります。これを男性作家が書くのは至難の業だと思いました。 

 時々、隆平は以前の生硬な一面を見せますが、次第にやさしい表情がでるようになり、旬太との生活に落ち着きが見えてきています。このような変化に美南は保育士としての職業的な肯定感を隆平に感じているようです。加えて、たぶん元々のルックスの良さもあってだろうと思いますが、美南は隆平に保育士としての職業的な関わり以上の、密かな好意が芽生えつつあるようです。 

 保育園にはさまざまな事情で子どもを預けている家庭があります。障害児をもつ親が子どもを受容するまでの苦悩とそれをサポートする保育士の取り組みや、倒産に伴う生活の苦しさと子育てへの影響とそれをサポートする保育士の取り組み、わがままなモンスターペアレントに翻弄される保育士が職業的な専門性を確立していく過程など、さまざまな子育てをめぐる切実な生活の断面とそれをサポートする保育士の生き方を読んでみたいと思います。また、保護者との距離を保たないといけないという職業的な倫理観と一人の女性としての美南の恋心の微妙な葛藤などを織り交ぜてこれからも描いてほしいと思います。