わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

原田マハ「夢をみた」(最終回)小説新潮2011年6月号

 この作品は2010年9月号から始ました。私はこの連載が始まった時からすっかり虜(とりこ)になってしまいました。キュレーター(学芸員)という職業や美術に関するテーマだったことが私には新鮮でした。このブログでも何回かその興奮を記述してきたところです。

 物語は2000年現在の大原美術館(岡山)に勤務する早川織絵の平凡な生活がルソーの「夢」を借り受ける交渉役にMoMAニューヨーク近代美術館)のチーフキュレーターであるティム・ブラウンから指名され、にわかに慌ただしくなるところから始まりました。そのあとは、ティムとオリエ・ハヤカワの1983年のバーゼルでの「夢をみた」の真贋講評コンペの出来事に多くのページが割かれていました。講評コンペの過程では2人の感情の機微や背後の利権をめぐる事情だけでなく、ルソーについて書かれた課題小説が物語を重厚にしていました。

 最終回でも1983年のバーゼルと2000年現在が描かれています。原田は最後まで読者に心地よいストーリーを提供してくれたと思います。

 1983年の部分では、講評コンペの依頼人・バイラーが「夢」のモデルであるヤドヴィガの夫・ジョセフだったのには驚きました。この設定ならバイラーが贋作も含め手当たり次第にルソーの作品を収集してきたことがうなずけます。課題小説の作者もバイラーでした。ジョセフ(バイラー)がいかにして名画のコレクターになれるほど財産をなしたのかは触れられていませんが、ジョセフがルソーの理解者だったピカソやその関係者との絵画の取引から莫大な財を成し得たということにしておきましょう。

 最後に2000年現在の第1話の時の状況に戻ります。2000年現在に戻すのに、娘の真絵(さなえ)の岡山弁は読者を一気に現在に引き戻すのに効果的でした。織絵はティムの指名でニューヨークにやってきて、MoMAの「夢」の前で17年ぶりにティムと再会します。話の展開からはティムが織絵に投げかける第1声はプロポーズであろうと仕掛けておいて、口から出たことばは「夢をみたんだ。-君に会う夢を」と「標題」に結び付け、かつ「落して」います。プロポーズだったら織絵が承諾するはずがないし、物語も「締らない」のでこの結末でいいのですが、原田はストーリーを楽しんでいるようです。何ともすがすがしい気持ちで最終話を読み終えることができました。読者を幸せな気分にさせてくれるすばらしい作品だったと思います。ありがとうございました。