わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

窪美澄「平熱セ氏三十六度二分」小説新潮2011年2月号

 この作品は2010年6月号の同女史の「なすすべもない」の事実上の連作です。しかし、作風は全く別の作品です。こういう作り方は読者無視のようであまり感心しません。 

 前作は「官能小説」の特集として創作されたからだと思いますが、(好き嫌いは別としても)一つひとつの文章に強烈なインパクトがありました。しかし、今回の作品は登場人物の描写が淡泊でほとんど印象に残りませんでした。作風は商店街の話題を中心とした軽いホームドラマ風といったところです。 

 前作では、兄、圭祐(けいすけ)の婚約者で保育士の「みひろ」が同級生で圭祐の弟である裕太(ゆうた)を誘惑しセックスをしてしまうところで終わっていましたが、今回の作品ではその後の気まずい展開やひろみや圭祐の心情は何も触れられていません。 

 また、今回の作品では、裕太が主人公で、母子家庭の母親に魅かれていくところで終わっています。ただ、登場人物の描写ではこの母親はDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けているような記述や、その子ども「リョウくん」も虐待を受けているような記述はありますが、そのことがただそれだけで終わっていて特に意味をなしていません。さらに、離別した夫は小児科の医師のようですが、そのことも今回の作品では一か所に登場しているだけで、作品の構成には無意味な印象でした。今後の展開につながっていくことを期待します。