わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

久保寺健彦「パパはドラキュラ」小説新潮2010年10月号

 この作品も青春小説として特集に入れるのは無理があるように感じましたが、ネグレクト(放任、児童虐待の一種)の子どもの心情を良く描いている作品で印象に残りました。 

 物語の主人公の尚人(なおと)は29歳のホストクラブのホストで、犬歯が大きくドラキュラの一発芸があります。尚人は永井という他のホストクラブのオーナーに目を付けられ、振り込め詐欺の「出し子」(ATMから現金を引き出す係のこと)を命じられてしまいます。その役回りから逃れるために、元同棲相手のホステスの珠美のマンションに逃げ込むことになります。 

 マンションには、珠美の小2の一人娘「かのか」がいました。かのかの家庭環境はネグレクトで、食事はコンビニ弁当、風呂、着替えはほとんどなし、就寝時間も深夜、学校は給食を摂れば帰ってきてしまうという設定です。尚人も父子家庭で転々とした子ども時代を過ごしました。 

 物語はかのかとの空想空間での会話がキーとなっています。かのかはオオカミ人間やドラキュラの世界に逃避願望があります。珠美のマンションに逃げ込んでいる間に、尚人は振り込め詐欺の犯人として映像公開されてしまいます。 

 クライマックスは、自首を決意し、かのかとの別れの場面です。尚人は空想会話の締めくくりに首筋に犬歯を食いこませました。ハッとして我に返り離れようとしたら、「もっとかんで、かのかをドラキュラにして」としがみついてきたのです。かのかが空想の中で生きられる時間はそれほど長くないと感じた尚人は混乱したまま「かのか、学校に行け」と声を張り上げ、泣きながらその場を走り去り交番をめざして物語は終了します。 

 以下はこのストーリーの後に、かのかが幸せになるための勝手な補足です。 

 かのかが道を外すことなく普通に成長するためには、母親である珠美の愛情が必要だと思いますが、珠美にそれを期待するのは状況的に無理のようです。尚人が更生し、かのかの父親になることが唯一の解決策のように思われます。尚人はそのまま自首すれば、それほど罪にはならないと思います。 

 さらに、かのかの更生のために自分が必要であることを訴えれば減刑されることも考えられます。そのためには、そのことに気づく優秀な人権派弁護士に当たらなければなりませんが、かのかの幸せは尚人にかかっているように思います。物語ではありますが、かのかの幸せな成長を願わずにはいられません。