わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

西條奈加「千両役者」小説新潮2010年8月号

 「千両役者」は2010年2月号の「蛤鍋の客」からの実質的な読切連載で、今月号で3連作目にあたります。 

 主人公のお末は信州の片田舎から奉公に出てきた14歳の設定です。第1作目ではだまされて連れ込み宿「鱗や」に奉公することになってしまったところから始まりました。従姉のお軽(かる)の後任ということでしたが、お軽は出入り業者の男と店のお金を持ち逃げしてしまったということで、その代わりの奉公となっています。しかしお軽の真相はその後、触れられていないので、今後の展開の中で扱われるのではないかと思われます。 

 さて、第1話ではお末が先輩女中や女将に厳しい扱いを受けていたので、苦労にもめげず奉公していく様を描くのかと思っていましたが、第2話目ではお末は利発で明るく振る舞う設定となっていましたので想定外の展開に戸惑いました。第3話目でもお末の位置は「鱗や」でしっかりキープされています。お末の描かれ方をみていますと、お末はきっと貧しくとも豊かな愛情に包まれて育てられたことが偲ばれます。良いことです。 

 むしろ展開は、婿養子の若旦那、八十八郎(やそはちろう)の冷静沈着な振る舞いや大きな愛の持ち主であることに加え、鱗やを連れ子み宿から今でいう高級料亭にしていきたい構想をもっていることを中心とした様々な出来事にテーマが移っていきそうな気配です。