わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

安住洋子「春の雨-小石川診療余話第1話-」小説新潮2010年8月号

 今月号の特集は時代小説でした。特集のテーマは「時代小説夕涼み」。前回、2010年2月号は「時代小説人生行路」でした。「人生行路」は編集者の意図がよくわかりませんでしたが、今月号の「夕涼み」は何となく季節感があっていいですね。 

 毎度、30年前との比較で恐縮ですが、30年前に連載されていた池波正太郎の「剣客商売」のシリーズは、毎号、作者の筆は名人芸といってよいほど心憎い展開で、毎回、「上手い」と思わずうなってしまったものです。

 今月号の特集ですが、「剣客商売」ほどの贔屓にしたい作品には出会いませんでしたが、比較的好みと感じた作品について触れたいと思います。

 

「春の雨-小石川診療余話第1話-」 安住洋子

 第1話とあるので、今月号からの不定期の読切連載だと思います。はじめに、小石川養生所(こいしかわようじょうしょ)の概要について記しておきます。 

 小石川養生所は、江戸時代に幕府が設置した無料の医療施設です。将軍徳川吉宗江戸町奉行大岡忠相の主導した享保の改革における下層民対策のひとつでもあります。幕末まで140年あまり江戸の貧民救済施設として機能しました。 

 発端は、享保7年(1722年)正月21日に、麹町(東京都新宿区)小石川伝通院(または三郎兵衛店)の町医師である小川笙船が目安箱(将軍への訴願を目的に設置)に貧民対策を投書することから始まります。小川笙船は翌月に評定所へ呼び出され、吉宗は忠相に養生所設立の検討を命じました。 

 設立計画書によれば、建築費は金210両と銀12匁、経常費は金289両と銀12匁1分8厘。人員は与力2人、同心10人、中間8人が配されました。 

 与力は入出病人の改めや総賄入用費の吟味を行い、同心のうち年寄同心は賄所総取締や諸物受払の吟味を行い、平同心は部屋の見回りや薬膳の立ち会い、錠前預かりなどを行いました。中間(ちゅうげん)は朝夕の病人食や看病、洗濯や門番などの雑用を担当し、女性患者は女性の中間が担当しました。【参考:『大岡忠相』から「下層民対策と小石川養生所」の項】(大石学著 吉川弘文館 2006) 

 さて、物語の主人公は小石川養生所勤務医の高橋淳之祐(たかはしじゅんのすけ)です。高橋の誠実な勤務には好感が持てます。また、看護中間で新入りの伊佐次が冷静で武勇にも優れていそうな描き方です。それなりの過去もあり今後の展開で何かありそうな配役です。その他の男の中間は賭博三昧で勤務態度も最悪です。そのなかでも賄中間のお梅、お絹、15歳のお瑛(えい)の3人の女性たちがまじめでよく仕事をする設定となっています。 

 小石川養生所界隈での高橋を中心とした今後の展開に注目です。