わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

今野敏「清明 隠蔽捜査8」(新連載)小説新潮2018年9月号

いよいよ「隠蔽捜査」シリーズ8作目が開幕です。物語は主人公の竜崎伸也が神奈川県警本部刑事部長として着任するところ始まりました。このシリーズをお読みの方はご存知のことですが、神奈川県警は竜崎が大森署長時代に合同捜査で指揮を執ったことのある県…

清水裕貴「金色の小部屋」小説新潮2018年8月号

本誌8月号は毎年、怪談の特集です。怪談には本当に怖い怪談とあまり怖くない怪談、哀しい怪談があるように思います。怖い怪談ばかり読んでいると本当に怖くなってしまいますが、適度に哀しい怪談も収録されていると緊張が解けます。この作品は哀しい怪談で…

重松清「シリーズ『まなつ』第1話 キープ・スマイル」小説新潮2018年7月号

例年、本誌7月号はその年の山本周五郎賞の決定発表の号です。あわせて、今年も歴代の同賞を受賞した作家による競作の特集がありました。今年は7作が収録されていました。(作品は末尾に記載します) いずれもそれぞれの作家の個性が光る秀作ぞろいで大いに…

越谷オサム「やまびこ」小説新潮2018年6月号

今月号で最も印象に残った作品です。「鉄道」特集のテーマを受けて、作者はやまびこ号での車中の出来事を主人公の過去と現在に絡めて、旅情たっぷりに描いています。 主人公は佐々木真人。40歳ぐらいの生命保険会社の支店長です。真人は父親の葬儀のために…

町田その子「リセット」小説新潮2018年5月号

今月号で最も心に残った作品です。物語は、主人公の萌子(もえこ)が恋人に捨てられ、恋人を待ち続ける決心を固めるまでを描いています。 妹の芽衣子と亡くなった“叔母”藤江(ふじえ)、恋人・安吾の「捨てる」行為をモチーフにしています。登場人物と構成が…

木内昇「深山町の双六堂」小説新潮2018年4月号

平穏こそが美徳としていた一家がありました。一家は夫と主人公の主婦・政子、姑と二人の息子の5人家族です。 長男が尋常小学校に通っているので時代設定は昭和初期頃のようです。(ただ、その必然性は特に感じられません) 政子は次第に平穏とは単に平凡の…

楡周平「鉄の楽園」(第5回)小説新潮2018年3月号

この作品は、昨今話題の東南アジアでの日本と中国での高速鉄道の受注競争を扱っています。ご案内のとおり価格競争では中国に勝ち目がありません。そこで、日本の強みを生かした受注はいかにあるべきかをテーマにしています。 主な登場人物に触れておきます。…

西きょうじ「そもそも」小説新潮2018年2月号

この連載エッセイは毎回、人間の社会的な行動や生理的な反応を脳科学などの自然科学の分野から、あるいは異分野と思えるような学際的な視点からわかりやすく説明していて、いつも興味深く拝見しています。今月号のテーマは「幸福」についてです。 「幸福とは…

薬丸岳「刑事弁護人」(第11回)小説新潮2018年1月号

この作品は、1回あたりの掲載分量が多くないので、各回に小さな山場を持ってきて臨場感を持たせるような設定ではありません。しかし、単行本で通読できるようになれば、よくできた作品になる気がします。徐々に事件の全容が明らかになっていきますので、推理…

小嶋陽太郎「恋をしたのだと思います」小説新潮2017年12月号

今月号の特集は「ファンタジー小説の現在」と題し、4作が収められていました。あわせて「日本ファンタジーノベル大賞2017」の発表もありました。 因みに、大賞は「隣のずこずこ」(柿村将彦)です。冒頭部分が抄録されていましたが、狸の置物が動き出し…

田中兆子「あなたの惑星」小説新潮2017年11月号

今月号の特集は「ネオ・エロティシズムの誘惑」と題して7作が収録されていました。わかりやすく言ってしまえばエロ小説の特集です。本誌は総合小説雑誌なので、ひととおりのジャンルの小説を収録しています。ですから、2、3年に一度はエロ小説の特集もあ…

乾緑郎「杉山検校」(第15回)小説新潮2017年10月号

この作品は、2016年8月号から連載され、今月号で第15回目です。まだまだストーリー展開は予想がつきません。 「検校(けんぎょう)」とは、中世・近世日本の盲官(盲人の役職)の最高位の名称です。また「杉山和一検校」は江戸元禄期に実在する盲人で…

藤田宜永「土産話」小説新潮2017年9月号

藤田氏は老年期を迎えた男性の本人や身内に起こる愛や恋に係る作品を本誌に連作しています。「恋物語」(2016年5月号)、「見えない再会」(2017年1月号)、「白いシャクナゲ」(2017年7月号)と続き、今回の作品となりました。 いずれの主人…

今野敏「棲月 隠蔽捜査7」(最終回)小説新潮2017年8月号

久々に隠蔽捜査シリーズを取り上げます。今回のシリーズも例によって、事件を中心に竜崎の私事が同時並行ですすんでいきます。 今回の事件は、サイバーテロとリンチ殺人事件です。同時並行ですすむ私事は、主人公である大森警察署長・竜崎伸也自身の人事異動…

矢野隆「耕書堂モンパルナス 其ノ壱 幾五郎が出逢う」小説新潮2017年7月号

この作品は「夏の時代小説」と題した今月号の特集作品の一つです。「耕書堂」「モンパルナス」と来れば、何を題材にした作品かはだいたい想像がつきますが、予断を排して読むのが読書の楽しみです。 物語は、幾五郎が耕書堂店主・蔦屋重三郎(つたやじゅうざ…

中野信子「孤独な脳、馬鹿になれない私」(第8回)小説新潮2017年6月号

今月号には人生の価値について触れている随筆やコラム、小説がいくつかありましたので、それらを取り上げてみたいと思います。 1つめは、「孤独な脳、馬鹿になれない私」(中野信子)です。 筆者は、ニュートリノ研究の第一人者であった戸塚洋二氏のエピソ…

伊藤万記「月と林檎」小説新潮2017年5月号

この作品は、今年度の「第16回女による女のためのR-18文学賞」で友近賞を受賞した作品です。R-18文学賞は、第10回までは「女性が書く、性をテーマにした小説」でしたが、第11回からは「女性ならではの感性を生かした小説」と主旨を変更してい…

永井紗耶子「つはものの女」小説新潮2017年4月号

今月号で最も好ましく感じたのがこの作品です。この作品は2016年10月号に掲載された「いろなぐさの女」の連作となりました。前作にも惹かれるところがありましたのでシリーズ化はうれしい限りです。 はじめに、作品の理解を助けるために、登場する大奥…

千早茜「硝子のコルセット」(第6回)小説新潮2017年3月号

「西洋の女性がコルセットをしなくなったのは1920年代。・・・それまでの千年近く、コルセットは当たり前のものとして着られていた」「セクシャリティによって色などが決まってくるのは19世紀からです。それまではファッションを享受できる階層の装い…

瀬尾まいこ「夏がぼくを走らせる」(第3回)小説新潮2017年2月号

この作品は不良の大田が3歳年上の中武先輩から1か月ほど1歳児のベビーシッターを無理やり頼まれ悪戦苦闘している様を今のところ描いています。 主人公の大田は現在高2。小学校時代からの根っからの不良です。中武も先輩といっても不良仲間の先輩というだ…

藤田宜永「見えない再会」小説新潮2017年1月号

この作品は前作(「恋物語」小説新潮2016年5月号)の連作となったようです。作者と同年齢男性の過去の恋をモチーフにして、老齢期に入った男性のこれからの生き方を描く作品群になるように思います。 今回の作品は本誌1月号の巻頭小説でした。主人公の平間…

長崎尚志「白馬の王子」小説新潮2016年12月号

今月号でもっともハラハラドキドキさせられた作品です。 倉持彩子(あやこ)が危うく轢き殺されそうになったところから物語は始まります。間一髪、通りすがりの青年が突き飛ばしてくれたおかげで彩子は命拾いをします。青年は“わざと轢こうとしたみたいでし…

レビューと感想

いつも拙い文章にお付き合いくださる皆さんにお礼いたします。 このブログは毎月の小説新潮の中で印象に残った作品を気の向くままに感想を書いています。月刊誌で毎月30作近い小説を読んでいきますので、1か月のブランクがある間にストーリーがあやふやに…

桜木紫乃「男と女」小説新潮2016年10月号

この作品はシリーズの6回目となっています。シリーズは主人公で看護師の平原紗弓(さゆみ)と、ほとんど紗弓の“扶養家族”状態となっている夫の信好(のぶよし)が北海道の地方都市で慎ましい生活をしている日常を描いたものです。 今回の作品は当直アルバイ…

澤村伊智「円環世界」小説新潮2016年9月号

今月号の特集は「謎とサスペンスの迷宮」と題し、本作品は特集の一作品として収録されていました。今回この作品を取り上げるのは、読後のやり切れなさが一番印象に残ったからです。 ミステリーやサスペンス小説ではハッピーエンドは少なく、割り切れなさを残…

乙川優三郎「R.S.ヴィラセニョール」(第2回)小説新潮2016年8月号

この作品は2016年7月号から連載が始まっています。主人公はレイ・シトウ・ヴィラセニョール(日本名 市東鈴・しとうれい)。フィリピン人の父・リオ・ヴィラセニョールと日本人の母・市東君枝の間に産まれたメスティソ(スペイン語 混血児)です。レイ…

伊吹有喜「カンパニー」(最終回)小説新潮2016年7月号

この作品は2015年4月号から連載され、いよいよ今月号で最終回となりました。これまでに2回感想を書いていますが、最終回もやはり取り上げます。 物語は、リストラ要員となった43歳の青柳誠一が縁もゆかりもないバレエ団に出向するところから始まりま…

藤岡陽子「水曜日はロードショー」小説新潮2016年6月号

この作品は、1年前(2015年6月号)の「木曜日の憂鬱」が連作となって復活したのでうれしくなりました。前作も心に残った作品でしたので、このシリーズ化は大歓迎です。1年の間隔を空けて続きが読めるのは、目まぐるしく時が過ぎていく今日にあって、…

藤田宜永「恋物語」小説新潮2016年5月号

今月号の特集は、「青の時代―大人のための青春小説」として、9編の作品が収録されていました。作品は大きく分けて、現在を青春時代ととらえて展開している作品と、過去の青春時代を回想している作品に分かれていました。 私が今回の特集でもっとも好いと感…

“編集長業務6年間お疲れ様でした” 小説新潮2016年4月号

今月号の編集後記によると本誌編集長は6年間同職を務められ、このたび異動となったとのことです。6年間の長きにわたりお疲れ様でした。 私が本誌を約30年ぶりに再読するようになったのは2010年1月号からで、このブログを始めたのは同年5月号からで…