わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

柚木麻子「BAKESHOP MIREY‘S」小説新潮2019年7月号

この作品は、東京本社から1年限定で転勤してきた中年OL(秀美 36歳 独身)と、寂れゆく地方都市で将来が見通せないことで鬱々としている25歳の女性(未怜・みれい)の物語です。 秀美は職場近くの横丁で昼だけ実験的にうどんを提供している「焼き鳥 …

越谷オサム「名島橋貨物列車クラブ」小説新潮2019年6月号

この作品は、はじめに「貨物列車の思い出」という小学生風の作文が載っています。これは主人公の原颯太(はら そうた)が小学校の卒業文集に提出した作文です。 しかし、颯太はこの作文が卒業文集に載るのは気持ち悪いと思っています。なぜなら、この作文は…

彩瀬まる「サーカスの日」(第5回)小説新潮2019年5月号

この作品は、ファンタジーのような書き出しで始まりましたが、その後はリアルな展開です。姉の片桐依千佳(いちか)と妹の仁胡瑠(にこる)が主人公の不思議な作品です。題名になっているくらいですから、幼い頃にサーカスに行った日のことが重要なモチーフ…

重松清「シリーズ『まなつ』十一番目の色」(第3回)小説新潮2019年4月号

今月号では心惹かれる作品を見つけられませんでした。これは作者や編集者の問題というよりは、大半が私の感性が硬直化していることが原因と思っています。感性を若返らせないといけないと反省です。 さて、今月号は上記のような事情で違和感を覚えた作品を取…

香月夕花「十三階段の夢」小説新潮2019年3月号

「う~ん、いい作品だったね」 「大小、いろんな要素がうまくはまっていた感じだ。構成が巧みというのかな」 「全盲の絵麻(えま)を通して、視覚障害者が外界をとらえる描写はイメージしやすかったね」 「道を覚えたいから、同行時に鼻歌を歌うのは止めてと…

長崎尚志「監視」小説新潮2019年2月号

短編でも短さを感じさせない短編があります。この作品はまさにその部類だと思います。今月号で一番気になった作品です。 主人公は島本慎二。島本の一人息子は15年前に横浜駅で喧嘩の仲裁をした際に何者かに暴行を受け、2日後に亡くなっています。妻は次第…

石田衣良「清く貧しく美しく」(第19回)小説新潮2019年1月号

先月に続き、今月もこの作品を取り上げます。2か月連続で取り上げるのは久しぶりです。それくらい今この作品に夢中です。今月号は2つの節で構成されています。 はじめに、先月号までのあらすじを簡単に触れておきます。 主人公は堅志。巨大通販会社のアル…

石田衣良「清く貧しく美しく」(第18回)小説新潮2018年12月号

今月号でもっとも印象に残った作品です。連載途中なので、掲載分量は小分けにされています。しかし、これだけの小分量で緊張感と密度を凝縮できる筆力はさすがにプロです。大いに堪能させていただきました。 主人公は堅志(けんじ)。大学卒業後、10年近く…

笹井都和古「続きはオフラインで」小説新潮2018年11月号

今月号の特集は「エロスは進化する!」と題し、近年恒例の年1回の官能小説特集です。私はこれまでにも何回か触れましたが、いわゆる官能小説は嫌いです。どんな高名な作家が書いても即物的な描写に至ると、「結局そこか・・・」と落胆してしまうことがほと…

藤野恵美「サバイバース・ギルト」(第6回)小説新潮2018年10月号

連載は6回目となり、徐々に物語の輪郭が見えてきました。 主人公の橙子(とうこ)は37歳の心理カウンセラーです。夫の律(りつ)は元プロのテニスプレーヤーでしたが、今はテニススクールのインストラクターです。律が失業中に出会い結婚しています。2人…

今野敏「清明 隠蔽捜査8」(新連載)小説新潮2018年9月号

いよいよ「隠蔽捜査」シリーズ8作目が開幕です。物語は主人公の竜崎伸也が神奈川県警本部刑事部長として着任するところ始まりました。このシリーズをお読みの方はご存知のことですが、神奈川県警は竜崎が大森署長時代に合同捜査で指揮を執ったことのある県…

清水裕貴「金色の小部屋」小説新潮2018年8月号

本誌8月号は毎年、怪談の特集です。怪談には本当に怖い怪談とあまり怖くない怪談、哀しい怪談があるように思います。怖い怪談ばかり読んでいると本当に怖くなってしまいますが、適度に哀しい怪談も収録されていると緊張が解けます。この作品は哀しい怪談で…

重松清「シリーズ『まなつ』第1話 キープ・スマイル」小説新潮2018年7月号

例年、本誌7月号はその年の山本周五郎賞の決定発表の号です。あわせて、今年も歴代の同賞を受賞した作家による競作の特集がありました。今年は7作が収録されていました。(作品は末尾に記載します) いずれもそれぞれの作家の個性が光る秀作ぞろいで大いに…

越谷オサム「やまびこ」小説新潮2018年6月号

今月号で最も印象に残った作品です。「鉄道」特集のテーマを受けて、作者はやまびこ号での車中の出来事を主人公の過去と現在に絡めて、旅情たっぷりに描いています。 主人公は佐々木真人。40歳ぐらいの生命保険会社の支店長です。真人は父親の葬儀のために…

町田その子「リセット」小説新潮2018年5月号

今月号で最も心に残った作品です。物語は、主人公の萌子(もえこ)が恋人に捨てられ、恋人を待ち続ける決心を固めるまでを描いています。 妹の芽衣子と亡くなった“叔母”藤江(ふじえ)、恋人・安吾の「捨てる」行為をモチーフにしています。登場人物と構成が…

木内昇「深山町の双六堂」小説新潮2018年4月号

平穏こそが美徳としていた一家がありました。一家は夫と主人公の主婦・政子、姑と二人の息子の5人家族です。 長男が尋常小学校に通っているので時代設定は昭和初期頃のようです。(ただ、その必然性は特に感じられません) 政子は次第に平穏とは単に平凡の…

楡周平「鉄の楽園」(第5回)小説新潮2018年3月号

この作品は、昨今話題の東南アジアでの日本と中国での高速鉄道の受注競争を扱っています。ご案内のとおり価格競争では中国に勝ち目がありません。そこで、日本の強みを生かした受注はいかにあるべきかをテーマにしています。 主な登場人物に触れておきます。…

西きょうじ「そもそも」小説新潮2018年2月号

この連載エッセイは毎回、人間の社会的な行動や生理的な反応を脳科学などの自然科学の分野から、あるいは異分野と思えるような学際的な視点からわかりやすく説明していて、いつも興味深く拝見しています。今月号のテーマは「幸福」についてです。 「幸福とは…

薬丸岳「刑事弁護人」(第11回)小説新潮2018年1月号

この作品は、1回あたりの掲載分量が多くないので、各回に小さな山場を持ってきて臨場感を持たせるような設定ではありません。しかし、単行本で通読できるようになれば、よくできた作品になる気がします。徐々に事件の全容が明らかになっていきますので、推理…

小嶋陽太郎「恋をしたのだと思います」小説新潮2017年12月号

今月号の特集は「ファンタジー小説の現在」と題し、4作が収められていました。あわせて「日本ファンタジーノベル大賞2017」の発表もありました。 因みに、大賞は「隣のずこずこ」(柿村将彦)です。冒頭部分が抄録されていましたが、狸の置物が動き出し…

田中兆子「あなたの惑星」小説新潮2017年11月号

今月号の特集は「ネオ・エロティシズムの誘惑」と題して7作が収録されていました。わかりやすく言ってしまえばエロ小説の特集です。本誌は総合小説雑誌なので、ひととおりのジャンルの小説を収録しています。ですから、2、3年に一度はエロ小説の特集もあ…

乾緑郎「杉山検校」(第15回)小説新潮2017年10月号

この作品は、2016年8月号から連載され、今月号で第15回目です。まだまだストーリー展開は予想がつきません。 「検校(けんぎょう)」とは、中世・近世日本の盲官(盲人の役職)の最高位の名称です。また「杉山和一検校」は江戸元禄期に実在する盲人で…

藤田宜永「土産話」小説新潮2017年9月号

藤田氏は老年期を迎えた男性の本人や身内に起こる愛や恋に係る作品を本誌に連作しています。「恋物語」(2016年5月号)、「見えない再会」(2017年1月号)、「白いシャクナゲ」(2017年7月号)と続き、今回の作品となりました。 いずれの主人…

今野敏「棲月 隠蔽捜査7」(最終回)小説新潮2017年8月号

久々に隠蔽捜査シリーズを取り上げます。今回のシリーズも例によって、事件を中心に竜崎の私事が同時並行ですすんでいきます。 今回の事件は、サイバーテロとリンチ殺人事件です。同時並行ですすむ私事は、主人公である大森警察署長・竜崎伸也自身の人事異動…

矢野隆「耕書堂モンパルナス 其ノ壱 幾五郎が出逢う」小説新潮2017年7月号

この作品は「夏の時代小説」と題した今月号の特集作品の一つです。「耕書堂」「モンパルナス」と来れば、何を題材にした作品かはだいたい想像がつきますが、予断を排して読むのが読書の楽しみです。 物語は、幾五郎が耕書堂店主・蔦屋重三郎(つたやじゅうざ…

中野信子「孤独な脳、馬鹿になれない私」(第8回)小説新潮2017年6月号

今月号には人生の価値について触れている随筆やコラム、小説がいくつかありましたので、それらを取り上げてみたいと思います。 1つめは、「孤独な脳、馬鹿になれない私」(中野信子)です。 筆者は、ニュートリノ研究の第一人者であった戸塚洋二氏のエピソ…

伊藤万記「月と林檎」小説新潮2017年5月号

この作品は、今年度の「第16回女による女のためのR-18文学賞」で友近賞を受賞した作品です。R-18文学賞は、第10回までは「女性が書く、性をテーマにした小説」でしたが、第11回からは「女性ならではの感性を生かした小説」と主旨を変更してい…

永井紗耶子「つはものの女」小説新潮2017年4月号

今月号で最も好ましく感じたのがこの作品です。この作品は2016年10月号に掲載された「いろなぐさの女」の連作となりました。前作にも惹かれるところがありましたのでシリーズ化はうれしい限りです。 はじめに、作品の理解を助けるために、登場する大奥…

千早茜「硝子のコルセット」(第6回)小説新潮2017年3月号

「西洋の女性がコルセットをしなくなったのは1920年代。・・・それまでの千年近く、コルセットは当たり前のものとして着られていた」「セクシャリティによって色などが決まってくるのは19世紀からです。それまではファッションを享受できる階層の装い…

瀬尾まいこ「夏がぼくを走らせる」(第3回)小説新潮2017年2月号

この作品は不良の大田が3歳年上の中武先輩から1か月ほど1歳児のベビーシッターを無理やり頼まれ悪戦苦闘している様を今のところ描いています。 主人公の大田は現在高2。小学校時代からの根っからの不良です。中武も先輩といっても不良仲間の先輩というだ…