わたしの小説新潮日記

小説新潮の感想を中心としたブログです

窪美澄「夏日狂想」(第6回)小説新潮2021年4月号

この作品は中原中也と小林秀雄との三角関係で有名な女優の長谷川泰子(1904年生れ-1993年没)をモデルにした作品です。中原が水本、小林が片岡、長谷川が礼子の名前で登場しています。 題名はご存知のとおり中原中也の「春日狂想」をもじったもので…

宮下洋一「デス・ペナルティー 生と死のあいだで」(新連載)小説新潮2021年3月号

連載は始まったばかりです。取材にも緊張が伝わってきます。この連載は「死刑の在り様を各国の現場取材を通して見つめ直す」新企画のようです。 筆者はこれまで長年、人間の誕生と死を取材してきた経験から、「人はみな、それぞれの考え方と生き方を持ち、第…

葉真中顕「異郷のイービス」(最終回)小説新潮2021年2月号

作品は終戦直後にブラジルの日本人移民社会で、先の戦争の戦果をめぐって起きた「勝ち組負け組抗争」という騒動を題材にしています。10か月間にわたり殺し合いが行われ、23人が亡くなり、381人の日本人が検挙され、国家騒乱罪で80人が国外追放にな…

貫井徳郎「邯鄲(かんたん)の島遥かなり」(最終回)小説新潮2021年1月号

作品の題名は「邯鄲(かんたん)の島遥かなり」です。2015年に連載が始まった頃はこの題名はどこに終結していくのか想像できませんでした。しかし、最終回を迎え、この題名が作品にもっともふさわしい題名であることに納得しました。あわせて、長期の連…

水沢秋生「つゆくさ」小説新潮2020年12月号

この作品は一度読んで心を揺さぶられ、二度読んで隠し技が見えてくる作品です。時制に幻惑されるファンタジー小説といえます。今回はおもに幻惑された部分について触れてみたいと思います。 作品は11の単元で構成されています。主人公の「彼」の大学生時代…

今野敏「探花 隠蔽捜査9」(第2回)小説新潮2020年11月号

隠蔽捜査シリーズの新連載が先月号から始まっています。今シリーズでは新キャラクターが登場しています。八島圭介(やしま けいすけ)です。福岡県警から神奈川県警の警務部長に異動してきました。しかも、竜崎とは東大法学部で同学年で同期キャリアという設…

浅田次郎「母の待つ里にて」(第8回)小説新潮2020年10月号

この作品にはこれまでに3人のエグゼクティブが登場しています。いずれも60歳前後の独身です。これらの3人は年会費が35万円する「ユナイテッドカード・プレミアムクラブ」の会員です。3人はこのカードを使って1泊2日で50万円する「ユナイテッド・…

加藤ジゲアキ「オルタネート」(最終回)小説新潮2020年9月号

今月号(9月号)からは心躍る作品がみつけられませんでした。もちろん、好みの作品は複数ありますが、連載途中だと書きにくい面があります。そこで今回は消去法でこの作品を取り上げます。 最終回では、これまでの主要な登場人物の出来事が完結にむけて展開…

梶よう子「東都の藍」(最終回)小説新潮2020年8月号

この小説は、歌川広重(安藤重右衛門)が鳴かず飛ばずの時代から「東海道五十三次」で名声を博し、「名所江戸百景」を描くまでの一代記です。作品は本誌に2019年4月号から2020年8月号まで17回に渡って連載されました。今月号がその最終回です。 …

本城雅人「黙約の傷」(新連載)小説新潮2020年7月号

今月号で最も夢中になった作品です。連載小説の抑えどころを押さえ、読者目線立った書きぶりに好感が持てました。 まず、登場する地名、大学名にわかりやすい工夫があります。 主人公の竹内正海(まさみ・28歳)が勤務する「潮(うしお)メディカルセンタ…

高丘哲次「円の終端」小説新潮2020年6月号

はるか昔、地殻変動で陸地が無くなり海だけの星になったときに、ヒトは知性をもった様々な種族を創造し滅びました。 主人公の「私」は父がハクセキレイ、母がヒトを祖先とするハクセキレイです。ただし、個体のハクセキレイではなく4億羽の集合体で1つの意…

梅田寿美子「カラダカシと三時の鳥」小説新潮2020年5月号

この作品は「第19回女による女のためのR-18文学賞」(2020年)で読者賞と友近賞を受賞した作品です。大賞は「何言ってんだ、今ごろ」(秋ひのこ作)でした。両作品とも魅力的な作品でしたが、私が一つ選ぶとすれば「カダラダカシ・・」です。 「・…

加藤シゲアキ「オルタネート」(第4回)小説新潮2020年4月号

この作品は本誌2020年1月号から連載しています。まだ第4回目なので、この後の展開はわかりませんが、ネットと現実の2つの社会の中で今を生きる高校生たちの成長を描く作品になると思います。 主な登場人物は、新見蓉(にいみ いるる)(高3)。蓉は…

朝倉かすみ「シネマスコープ」小説新潮2020年3月号

今月号の特集は、「もう一杯、飲む?-酒のある風景をめぐって」と題し、5つの小説と2つのエッセイが収録されていました。編集者はこの出来栄えはどのように自己評価しているのでしょうか。私は心に残る作品が見つかりませんでした。 好みの作品の感想を書…

村木美涼「影が消えるまで」小説新潮2020年2月号

共働きの中年夫婦が穏やかに休日を過ごしているところに、「『分離後消滅前期間に於ける投影体暫時集合施設』に関するお願い」という文書が役所から送られてきます。この奇怪な標題の文書を妻が読み上げるところから物語は始まります。 人体が作る影は一定期…

諸田玲子「ちよぼ」小説新潮2020年1月号

本作は本阿弥光悦が後に加賀前田家三代当主である利常の生母となった寿福院(千代保・ちよぼ・前田利家の側室)との交流を描いた作品です。全編をとおして気品のある作品です。 物語は寿福院の孫娘である満(まん)が光悦の死を報せるために寿福院が眠る長栄…

梶尾真治「ハナと暮らす」小説新潮2019年12月号

2017年から12月号はファンタジー小説の特集です。年1回特集月が固定されていると、そのジャンルにおける1年の小説の動向がおおよそ俯瞰できるので悪くない編集方針だと思います。 さて、本作は今月号の全作品の中でいちばん心に残った作品です。 豊…

千加野あい「雪解け」小説新潮2019年11月号

今月号は年1回恒例のエロス特集です。残念ながら、特集にふさわしい小説は実質的に3作しか収録されていません。私が20代の頃に本誌を読んでいたときの官能小説特集は多くの作者が競演していました。それを思うと寂しい限りです。編集長の眼鏡にかなう小…

植松三十里「雪山越え」小説新潮2019年10月号

本誌で久々に泣けた作品です。主人公は、松平康俊(やすとし)。徳川家康の10歳年下の異父弟です。御年19歳。康俊はもともと、今川家に人質になっている家康の家臣の息子たち11人と交換のために、今川の館に10歳の時に人質になっていました。しかし…

今野敏「空席 隠蔽捜査外伝」小説新潮2019年9月号

シリーズ最新作の「清明」では主人公・竜崎伸也が神奈川県警刑事部長に異動した最初の事件を扱っていました。 今月号の作品は、竜崎が大森署を転出する当日まで遡り、後任署長の着任が遅れている「空席」の間に起きた事件を扱っています。まさに「外伝」とし…

石井光太「いのちの家『こどもホスピス』をめぐる物語」(第2回)小説新潮2019年8月号

2016年4月に日本で最初の民間の小児ホスピス「TSURUMIこどもホスピス」が誕生します。この作品は、その「設立までの道のりとその後を追う長編ノンフィクション」です。 まだ、連載は始まったばかりですが、心が痛む連続です。そこで、その記憶を…

柚木麻子「BAKESHOP MIREY‘S」小説新潮2019年7月号

この作品は、東京本社から1年限定で転勤してきた中年OL(秀美 36歳 独身)と、寂れゆく地方都市で将来が見通せないことで鬱々としている25歳の女性(未怜・みれい)の物語です。 秀美は職場近くの横丁で昼だけ実験的にうどんを提供している「焼き鳥 …

越谷オサム「名島橋貨物列車クラブ」小説新潮2019年6月号

この作品は、はじめに「貨物列車の思い出」という小学生風の作文が載っています。これは主人公の原颯太(はら そうた)が小学校の卒業文集に提出した作文です。 しかし、颯太はこの作文が卒業文集に載るのは気持ち悪いと思っています。なぜなら、この作文は…

彩瀬まる「サーカスの日」(第5回)小説新潮2019年5月号

この作品は、ファンタジーのような書き出しで始まりましたが、その後はリアルな展開です。姉の片桐依千佳(いちか)と妹の仁胡瑠(にこる)が主人公の不思議な作品です。題名になっているくらいですから、幼い頃にサーカスに行った日のことが重要なモチーフ…

重松清「シリーズ『まなつ』十一番目の色」(第3回)小説新潮2019年4月号

今月号では心惹かれる作品を見つけられませんでした。これは作者や編集者の問題というよりは、大半が私の感性が硬直化していることが原因と思っています。感性を若返らせないといけないと反省です。 さて、今月号は上記のような事情で違和感を覚えた作品を取…

香月夕花「十三階段の夢」小説新潮2019年3月号

「う~ん、いい作品だったね」 「大小、いろんな要素がうまくはまっていた感じだ。構成が巧みというのかな」 「全盲の絵麻(えま)を通して、視覚障害者が外界をとらえる描写はイメージしやすかったね」 「道を覚えたいから、同行時に鼻歌を歌うのは止めてと…

長崎尚志「監視」小説新潮2019年2月号

短編でも短さを感じさせない短編があります。この作品はまさにその部類だと思います。今月号で一番気になった作品です。 主人公は島本慎二。島本の一人息子は15年前に横浜駅で喧嘩の仲裁をした際に何者かに暴行を受け、2日後に亡くなっています。妻は次第…

石田衣良「清く貧しく美しく」(第19回)小説新潮2019年1月号

先月に続き、今月もこの作品を取り上げます。2か月連続で取り上げるのは久しぶりです。それくらい今この作品に夢中です。今月号は2つの節で構成されています。 はじめに、先月号までのあらすじを簡単に触れておきます。 主人公は堅志。巨大通販会社のアル…

石田衣良「清く貧しく美しく」(第18回)小説新潮2018年12月号

今月号でもっとも印象に残った作品です。連載途中なので、掲載分量は小分けにされています。しかし、これだけの小分量で緊張感と密度を凝縮できる筆力はさすがにプロです。大いに堪能させていただきました。 主人公は堅志(けんじ)。大学卒業後、10年近く…

笹井都和古「続きはオフラインで」小説新潮2018年11月号

今月号の特集は「エロスは進化する!」と題し、近年恒例の年1回の官能小説特集です。私はこれまでにも何回か触れましたが、いわゆる官能小説は嫌いです。どんな高名な作家が書いても即物的な描写に至ると、「結局そこか・・・」と落胆してしまうことがほと…